この3月6日に準惑星ケレスの周回軌道に入り、史上はじめての準惑星探査を開始した探査機「ドーン」について、現在アメリカ・テキサス州ザ・ウッドランズで開催されている第46回月・惑星探査会議(LPSC)において最新の状況が報告されました。

ドーンは、小惑星(計画策定当時はまだ「準惑星」という分類はなかったのです)を探査するための探査機です。2007年9月に打ち上げられ、2011年7月に小惑星ベスタに到着、その素顔を詳細に観測しました。次々に明らかになるベスタの素顔は科学者だけではなく多くの人を驚かせ、興奮させました。
その後、ベスタの周回軌道から離れ、次の目的地である準惑星ケレスへ移動、この3月6日(現地時間)に周回軌道への投入に成功しました。
今回はその直後に開催された学会ということもあり、最新の成果(もちろん周回開始から10日ほどですから、まだ科学的な成果はほとんど挙がっていませんが、それでも最新の「情報」というのは聞きたいものです)や状況について知りたいという人が多数押しかけ、かなり大きな部屋での開催にもかかわらず、立ち見を含む多くの聴衆でいっぱいになりました。

最初に、ドーンの主任研究者(PI)であるクリス・ラッセル氏が、全体の状況について発表を行いました。
ドーンは電気推進で進む探査機です。そのようなこともあり、周回軌道にはいきなり入るのではなく、徐々に高度を下げるという形を撮っています。最初に、「RC」(Rotational Characterization: 高高度周回概要観測)という形で、ケレスからかなり離れたところから全体を撮像していきます。RCは3段階あり、RC1, RC2, RC3という形で進んでいきます。これが終わりますと、高高度マッピング軌道(HAMO: High Altitude Mapping Orbit)へ、その次に最終的な観測軌道である抵抗度マッピング軌道(LAMO: Low Altitude Mapping Orbit)へと移行します。
なお、RC3ではケレスからの高度は約4万キロ、HAMOの段階では約2000キロ、そしてLAMOの段階では850キロという高度になります。RC3の実施はこの4〜5月になるとのことです。
発表ではすでにRC段階で撮影されたケレスの写真をつなぎあわせて作成された全球写真が公開されており、会場から驚きの声が上がっていました。
LAMOの段階での解像度は1ピクセルあたり35〜40メートルになるとのことです。

この写真をみても、ケレスが少なくとも前に立ち寄ったベスタと大きく違うことがはっきりとわかりました。表面には非常にクレーターが多く、地表がかなり複雑な成り立ちになっていることが伺えます。また、クレーターが多くゴツゴツした場所と、わりと滑らかな(平らな)場所があることがわかりました。また、断層のような直線状の構造もみえています。

このドーンの初期成果のセッションでは、これまでの段階で取得されたデータや、シミュレーションなどによる検討を元にしたさまざまな成果が発表されました。
その1つが、内部構造についての推定です。

ケレスの内部がどのようになっているのかについては非常に強い関心が持たれていました。内部構造を知ることは、ケレスの形成、そして地表の地形の特徴を知る上で重要なポイントになるからです。
現時点では、ケレスには大きな岩石の核があり、その上を液体の水の層が多い、表面は氷でできていると考えられています。つまり、小惑星という言葉に似合わず、ケレスは水の量が比較的多く、「水っぽい」天体であることが明らかになりつつあります。

このことを裏付けるのが、最近話題になった、ケレス表面の「白い点」です。メディアなどでも取り上げられ、ご覧になった方も多いと思いますが、ケレスの表面にあるクレーターの中に「謎の」白い点(班)が現れたのです。
これについては、この白い班のスペクトルを調べる形で、その正体を明らかにした研究が発表されました。白い班(発表での言い方に倣って「スポット5」=スポット・ファイブということにしましょう)をケレスの自転に合わせて1日じゅう追いかけながら撮影し、その様子を追いかけてみたところ、日没になるとスポット5が消えてしまうことがわかりました。
白い点はケレスでもほかにいくつか見つかっていますが、ほぼ同様に、日没になると消えるという特徴を持っています。また、そのスペクトルが1日の間で大きく変化することがわかりました。

これらの観測結果から、ケレスでは少なくともかなり活動的な現象が起きていることは間違いないということになりました。
この白い点は、地下から噴出している水または氷と考えられ、クレーターの割れ目から(例えば太陽の熱などで)噴出しているのではないかと推定されます。ただ、スペクトルをみますと、スポット5と他の点では異なる特徴があることから、それぞれの点の組成や噴出(だとすれば)の理由は今後の観測で明らかにしていく必要があるでしょう。

この、水(あるいは氷)が噴出するメカニズムについて、シミュレーションで明らかにした研究も発表されました。
上で述べた通り、ケレスでは地下に海が存在すると考えられています。一方、表面は氷でできているようです。この氷に割れ目などがあった場合、地下の圧力で水が噴出する可能性があります。
このポイントは、氷が凍ることによって体積が増えるというところにあるようです。体積が増えることによって氷の層に割れ目ができ、そこから地下の圧力によって水が噴出し、それが白い点として捉えられる…そのようなシナリオが描けそうです。

また、観測されたクレーターの特徴から、内部構造についての検討を行った研究も発表されています。
ケレスがクレーターだらけであることは上で述べました。そこで、このクレーターを地下の構造の推定に使おうという研究が行われました。もし表面が氷で覆われていれば、氷は岩石に比べて変形しやすいため、一旦できたクレーターは比較的短い時間で消えたり、形が変わって浅くなってしまうはずです。
また、氷の厚さが薄く、地下に(比較的固い)岩石がある場合には、クレーターは浅いものになるはずです。
実際のクレーターを調べてみると、比較的大きなクレーターでもわりと浅いことがわかってきました。従って、ケレスの内部には岩石質の大きなコアがあって、その上に水、さらにその上(表面)に氷と、かなりしっかりした成層構造ができているのではないかと推測されます。
小惑星(準惑星)は比較的小さいことから、そのようなしっかりしたコアを持っているかどうかという点については科学者の関心が集まっていましたが、現時点での観測結果では、「ある」と考えてよいでしょう。内部が不均一、ということはどうもないようです。

一連の発表内容は、まだ観測を始めてごくわずかな期間の話であり(最初にドーンのカメラでケレスをとらえたのは12月1日です)、この先の重点的な観測によって、より詳細なケレスの姿を追いかける必要はあります。
ですが、この時点でも、ケレスのような天体がどのような内部構造を持つか、また表面の特徴を持つか、といったことについて、限定的ながらも非常に興味深い情報が得られました。今後の観測で、ケレスの姿がさらに明らかになることが楽しみです。

なお、ケレスの表面の地形については、国際天文学連合(IAU)の規約により、各国の豊穣の神様の名前がつけられることになっています。