打ち上げから3年半。NASAの小惑星探査機「ドーン」が、いよいよ最初の目的である、小惑星ベスタに接近します。
あと約4ヶ月弱で、その目的地にたどり着くというところまでやってきました。
「近づいた。」探査責任者でもあり、主任技術者でもあるマーク・ノーマン氏はこのように述べています。「そして毎日毎日、わくわく感が増してきてるんだよ。」
ドーンがベスタ周回軌道に入るのは今年の7月の予定です。これによって、ドーンは小惑星帯の天体を周回することになる、世界初の探査機となります。ドーンの表面を詳細に探査したのち、この探査機はさらなる目的地を目指します。準惑星ケレスです。そして、このケレスの回りも周回することになります。
「はじめての挑戦だ。小惑星帯にあるような小さな天体に向かい、しかも2つの天体の回りを周回するなんていうのは、これまでにないチャレンジになる。これまで何機かの宇宙探査機が小惑星帯を通り過ぎて、小惑星の写真を撮ってきた。しかし、そこにとどまって細かい探査をした、ということはなかった。」(マーク・ノーマン氏)
通常、探査機は大きなロケットを使って打ち上げられ、目的地へと向かいます。しかし、途中で進路を変えようとすれば、そのために大量の燃料が必要になるため、探査機はどうしても重くなってしまいます。
このドーン探査機は非常に燃料を効率的に使うようになっています。約20メートルの幅がある太陽電池パネルで発電された電気は、キセノンをイオン化して噴射する、イオンエンジンを駆動します。イオンエンジンは、電場を使ってイオン化されたキセノン原子を高速に加速して噴射します。イオンエンジンは摩擦もなければ軽量でもあるのですが、一方で推進力としては非常に小さいものです。従って、イオンエンジンを使う探査機は長時間にわたってエンジンを噴射する必要があります。
「電気推進を使うと、探査機は最終的にものすごい速度を得ることができる。しかも、燃料消費はほんのちょびっとなのだ。キセノンの消費量は4日で1キログラム。このようにしてエンジンをほぼ毎日動かしている。」
このようにして、ドーン探査機はっゆっくりと、しかし着実に自身の太陽周回軌道を修正しつつ、目的地に向けてアプローチをかけていきます。


「探査機がベスタ周辺に到達した際には、その軌道はベスタ自身のものと非常にそっくりになる。なので、到着したときには、ドーンは3年半旅してきたように、ゆっくりとドーンの軌道へと入ることになる。」
通常、探査機がこういう目的天体の周回軌道に入るときというのは、まさに一大イベントとなります。探査機のエンジンが噴射されて周回軌道に入るというのはまさに一発のチャンスなので、探査チームは皆画面に釘付けとなって、探査機から送られてくる情報を逐一見守ることになります。
「ところが、ドーンの場合にはこういう一度での軌道変更というのは行わない。もちろん、大きな軌道変更のためのロケット噴射というのもない。だから、一発勝負の危険なチャンスということもない。ドーンが軌道に入るやり方というのは、探査機がいつものように軌道を変更している、まさにそれと一緒なのだ…ちょうどあなたがこの記事を読んでいるときにもそうしているようにね。実際、私が寝ているときだって、ドーンは少しずつ軌道を変えている。金曜日の夜、私がダンスパーティに行っているときでも、土曜日にトンボの写真を撮りに行っているときも…」
しかし、さすがに探査が始まったら、彼も管制室に入ることにはなります。
「ドーン探査機から、ベスタを間近にみられるというのにはすごくわくわくしている。最初はあまり面白くない小さな点から始まって、探査機が近づいていくにつれて、それが実世界の様子を180キロ上空から詳細に見る絵に変わっていくんだ。国際宇宙ステーション(ISS)から地球の表面をみるよりも近いんだよ! 私たちはそこにいるのだし、もし高い木さえなければ、私たちは安全だよ。」
ベスタを約1年間にわたって探査しますと、今度は行きと同じように、少しずつベスタから離れていきます。到着するときとは逆に、ベスタへの(からの)らせんを描く軌道を少しずつ上っていく形になります。ベスタから少しずつ離れ、らせんは少しずつ長くなっていきます。こうして、最終的には探査機はベスタの重力圏を脱することになります。そして、ドーン探査機はふたたび太陽周回軌道へと戻ることになります。その時点で、最終目的地である準惑星ケレスへの旅の3分の2が終わったことになります。
ケレスに到着すれば、また同じように、イオンエンジンを使って、ゆっくりと周回軌道へと入っていくことになります。
「もし私たちがイオンエンジンの音を聞けたとしても、ちょっとしたささやき声よりも小さな音だろう。でも、イオンエンジンは私たちに、遠くの未知なる世界への惑星間飛行をどのように行えばいいのかを教えてくれるのだ。長い間宇宙を知りたいと思ってきた、私たち地球人たちの夢を乗せて、ね。」