先日、約1年探査を続けてきた小惑星ベスタから離脱した探査機ドーンですが、その新たな発見は、いわばベスタのネックレスとでもいえるものです。このほど、ドーンの探査結果の分析について論文が2本発表され、その中で、揮発性物質(あるいは蒸発しやすい物質)がベスタの赤道を取り巻くように分布していることが明らかにされました。
おそらくこの揮発性物質は、ベスタに存在する水を含む鉱物から放出されたと思われます。ベスタの表面にはところどころ、大きな穴が開いた地形が確認されていますが、これはこのような揮発性物質が抜けて陥没した跡だと考えられています。ドーンの観測そのものでは、ベスタに水を確認していませんが、外部からいん石などの形でもたらされた水により、ベスタに含水鉱物(水を含む鉱物)が存在していることは確かなようです。この研究結果は、木曜日(20日)に発行される科学雑誌サイエンスに掲載されます。


2本の論文のうち、ドーンのガンマ線・中性子検出器の主任研究者である惑星科学研究所(アリゾナ州ツーソン)のトマス・プリティーマン氏が筆頭著者の論文では、水素の痕跡をどのようにしてこの機器が発見したのか、またこの水素が、鉱物の中にヒドロキシル基(水酸基…水分子(H2O)の水素がとれた、OHだけの部分のこと)として、あるいは閉じ込められた形で存在する可能性が高いことを述べています。
プリティーマン氏によれば、このような水(ヒドロキシル基など)は外部からベスタにもたらされたもので、おそらくその起源は炭素質いん石(揮発性物質などを多く含む始原的ないん石)ではないかと考えられるとのことです。衝突が低速であれば、水が蒸発することもなくベスタ表面に残ると考えられます。
もう1本の論文は、ジョンズホプキンス大学応用物理学研究所に所属し、ドーン計画に参加しているブレット・デネビ氏によるもので、揮発性物質が蒸発したためにできたと考えられるベスタ表面の陥没地形について述べています。
科学者はこれまで、ドーン表面の揮発性物質について、極地域なら残る可能性が高いと考えてきました。同じような例としては地球の月や水星などがあります。しかし、月とは違って、ベスタの極地域には、氷を残しておけるような永久影領域(編集長注=クレーターの影などのため、太陽の光が永遠に当たらない領域のこと)が存在しません。しかも、今回の分析結果では、揮発性物質、あるいは水が存在するとされているのは、極ではなく赤道地域なのです。
いん石がベスタ表面に高速で衝突すると、鉱物の中に含まれている水は水蒸気として放出されます。こうやってできた穴は直径が約1キロ、深さは200メートルにも達する大きなもので、ドーン搭載のカメラから撮影された画像でみると、マルシア・クレーターの周辺で、このような地形が最もよく保存されているようです。
デネビ氏によると、この地形は火星にあるものとよく似ており、水が豊富に存在する(少なくとも地下に)ことがわかっている火星とは異なり、水が少ないと思われている(いた)ベスタに存在するとは思ってもいなかったとのことです。この結果は、単に含水鉱物が存在するということだけではなく、小惑星の表面がどのように変化、進化して現在に至ったのかを示す重要な手がかりになると考えられます。
今回の論文は、ガンマ線・中性子検出器のデータ解析結果を示すはじめての論文となります。ドーンによる元素の分析は、酸素に対する鉄の存在比率、及びケイ素に対する鉄の存在比率が調べられてきました。今回の分析結果は、ベスタが、地球に落ちてくるいん石の中で「ホワルダイト」(Howardite)、「ユークライト」(Eucrite)、「ダイオジェナイト」(Diogenite)…3つを総称して「HEDいん石」という種類に分類されるいん石と関係が深いことを改めて示しています。元素の存在比率がこれらのいん石とまったく同一だったのです。さらに、HEDいん石は揮発性物質を含む部分があることがわかっており、このことも、ベスタの含水鉱物、さらには揮発性物質の存在を裏付ける形となっています。
ベスタは、小惑星帯の中では2番目に大きい小惑星で(編集長注=小惑星帯の中の天体では3番目だが、最大の天体は準惑星ケレス)、ドーンはこの表面を高さ約210キロで周回し、約1年探査を続けてきました。この9月5日(現地時間)にベスタを離脱、次の目的地であるケレスへと向かっています。