NASAのドーン探査機は、いよいよ最初の目的地である小惑星ベスタへと近づいてきました。現在のところ、ベスタへの周回軌道には7月16日に投入される予定で、詳細な科学探査は8月はじめから開始される予定です。ベスタは小惑星帯に属する大型の(小惑星としては、パラス、ジュノーについで3番目)小惑星で、また、多くの隕石の源の天体としても知られています。
ドーンの探査責任者であるJPLのロバート・メーズ氏は、「探査機は目標(ベスタ)へと真っすぐ向かっている。これから1年間にわたっての探査によって、ベスタの知られざる素顔がみられることを楽しみにしている」と語っています。
現時点で、ドーン探査機はベスタから約15万5000キロ離れたところにおり、これまでの飛行距離は約27億キロにも達しています。探査機はベスタ地表から約1万6000キロ離れたところで、ベスタの重力圏へと入ります。ベスタは地球から約1億8800万キロメートル離れたところにあります。
ドーンがベスタ周回軌道に投入されたあと、技術者は数日かけて、正確な投入時刻を知る必要があります。こういう探査機の場合、例えば先日水星周回軌道に投入されたメッセンジャー探査機のように、たいていは化学推進エンジンを思い切り逆噴射して減速するのが一般的なのですが、ドーン探査機は化学推進エンジンではなく、電気推進エンジンを使用しているため、ベスタの軌道に合うように何年もかけて軌道を変化させてきています。
ドーン探査機に搭載されているカメラから撮影したデータ(航法目的)は、徐々にベスタの姿が大きくなっている様子を示しています。また、ベスタ自身が65度ほど回転(自転)していることもわかります。取得された画像は、ハッブル宇宙望遠鏡が捉えたベスタの姿に比べても2倍もはっきりと写ってはいるものの、この自転ではいまだベスタの地表の様子はよくわかりません。
ドーンに搭載されている3種類の観測機器はすべて正常で、校正もしっかりと行われています。例えば、可視・赤外マッピングスペクトロメーターはベスタの撮影を続けており、大きさは既に数ピクセル以上になっています。初期偵察軌道では、高度2700キロからベスタのカラー画像を取得する一方、いろいろな波長での反射スペクトルデータを得る予定です。探査機はその後高々度マッピング軌道(高度680キロメートル)へ移行しますが、ここではベスタの太陽に照らされている側のマッピングを実施します。また、ステレオマッピングにより、ベスタの地形データを取得します。スペクトルデータを取得することによってベスタ表面の岩石種を同定するほか、ベスタ表面の熱についての諸特性を観測することになります。
さらに、ドーン探査機は低高度マッピング軌道(高度200キロ)へと入り、観測を行います。基本的な科学目標は、宇宙線が表面に当たることで生成されるさまざまな物質を発見すること、さまざまな原子が表面で発見できるような観測を行うこと、そしてベスタの内部構造を調べることです。ドーンはベスタからはちょうどらせんを描くようにして離れていくため、今度はふたたび高々度マッピング軌道へと移っていきます。この間に太陽の位置が変わるため、科学者たちは新しい(以前には暗くて観測できなかった)領域の観測ができるほか、以前に観測した領域も違う太陽光の角度で観測を行うことができます。
副探査責任者であるJPLのキャロル・レイモンド氏は、「ドーンがベスタを周回する1年間の間には、科学観測がぎっしり詰まっている。ベスタの謎を解くことができるかも知れない。」と期待を語っています。
・NASAのプレスリリース (英語)
  http://www.nasa.gov/home/hqnews/2011/jun/HQ_11-197_Dawn_Nears_Vesta.html
・ドーン (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/pex_world/Dawn/