月、火星ときて、次の目標は金星、そして木星というところでしょうか。インドの宇宙開発の本拠地があるバンガロールの地元紙・バンガロール・ミラーが、インドの次の宇宙開発(月・惑星探査の目標)が金星および木星であると報じています。

この記事は、インド宇宙研究機関(ISRO)の液体推進システムセンター長のソマナス・S氏の言葉として伝えられています。
それによると、これら2つの天体へ探査機を送るため、ISROでは2年ほどかけて基礎研究を行うとのことです。
金星に探査機を送るための理想的なタイミング(ローンチ・ウィンドウ)は約19ヶ月おき、木星へのローンチ・ウィンドウは約33ヶ月おきとのことです。ですので、その好機を狙って探査機を打ち上げることになり、必然的に打ち上げのタイミングは限られてきます。つまり、あらかじめ打ち上げ時期が決められた上で、それに向けて探査機の基本設計、さらに製造までが進むという仕組みになっていくようです。

一方同紙は、金星と木星という両方の衛星へのミッションを同時に進めるのは困難だと指摘しています。そのあめ、おそらく最初は金星ミッションが行われることになり、その後木星ミッションが実施されるのではないかと推測しています。
また同紙は、ISROの研究者の話として、すでに木星ミッションに搭載する機器については慎重に行わなければならないとのことです。「80億円(45億インドルピー)で製造された火星探査機とは異なり、木星については機器を慎重に選び、探査機を組み立てねばならない。いまのところ最小の探査機器(ペイロード)での構成で考えているが、現時点ではどのタイミングで打ち上げるかについては確定していない」と述べています。
木星となると距離もさることながら、強大な磁場、寒冷な温度環境、太陽から遠いこと(による太陽光発電能力の大幅な低下、あるいはそれを補うための原子力電池の開発)など非常に厳しい条件が重なってきます。そのため、インドとしても火星探査以上に大きなチャレンジであると認識しているのでしょう。かなり慎重になっているようです。

ソマナス氏は、これらの惑星へのミッションに際し、インドが現在開発中の大型ロケット、GSLV Mark-IIIの使用を検討しているようです。現在インドは今月中にこのGSLV Mark−IIIの打ち上げを計画しており、これがうまくいけば、本格的にこの大型ロケットの運用を行えることになるでしょう。
打ち上げ能力としては、地球低軌道に8トン、静止軌道に4トンの物資を送ることができ、これは日本の現在の主力ロケット、H-IIAより若干低いものの十分対抗できる数値ではあります。
一方、衛星側の問題もあります。インドがこれまで打ち上げた衛星は最大で3.2トンで、こういった遠い天体への打ち上げに際してはより大型の衛星が必要になる可能性があります。そのため、ソマナス氏は現在、ISRO内部において、最大10トンの衛星を開発できるように能力を引き上げる検討を行っていると語っています。

いずれにしても、インドは月、火星探査を着実に実施したあと、さらに外へ広げるという戦略を取るようです。この点、月に定期的に探査機を送って「足場を固める」やり方(いわゆるプログラム探査)を進める中国とはやや異なり、技術の進歩のため、あるいは技術のデモンストレーションのためにはより遠くの天体に探査機を送るということを選んでいる様子が垣間みえます。
インドの宇宙開発はもはや「隠れた宇宙大国」レベルではなく、領域によっては日本も追い越した本格的なものになっていると我々は認識する必要があります。その認識をもとにした上で、これらの金星や木星ミッションがいつ実現するのか、またどのような探査機、ロケットの組み合わせなどにするのかといった詳細な点まで情報を確保する必要があるでしょう。それこそが「ライバルに勝つ」ための道です。