月面を観察してみると、クレーターから出てくる光条は、ひときわ目を引くものです。この光条は、クレーターができたときに、地下の物質が飛ばされてできたものです。長いものになると、例えばティコクレーターの光条は、月の半径の4分の1近くまで達するほど長いものです。
この光条にも、たとえばかなり規則正しく放射状になっているものや、特定の方向へ飛び出しているようにみえる形のものなど、様々です。
最初にぴんと来る考え方としては、ぶつかってきた天体が斜め(非常に低角度)に侵入してきた場合です。この場合、天体がぶつかってきた方向に破片が集中して飛び散り、対象形でない光条の放射パターンができ上がるとも考えられます。
しかし、実験室内で衝突の模擬実験をいろいろと繰り返した結果、かなりの低角度(15度以下)でぶつからない限り、そのような非対称の放射パターンはできないということがわかっています。天体が衝突するときには、あまり低角度で衝突することはないので、このような原因で、全ての非対象な光条を持つクレーターの成因とすることはできそうにありません。
さて、クレーターができる過程は、非常に素早いものです。ぶつかってから物質が飛びって光条ができるまで、せいぜい数分から数十分くらいしかかかりません。そのような衝突の最中では、ほんのちょっとした原因で、飛び散る物質の方向が変わるということは十分に考えられます。例えば、衝突直前に天体が破片に分かれたり、衝突した場所の地質が複雑であったりすれば、そのような影響を受けて、物質の飛び散る方向が変わることは十分にあり得ます。
また、衝突後に、他のクレーターからの破片が覆ったりすることによって、本来放射状に飛び散っていた光条が被われて、特定の方向にしか光条が伸びていないようにみえるということも考えられます。
このように、いろいろな要因、それに月面での様々な変化が重なり合って、いま私たちがみるような光条ができ上がっていると考えられるのです。