ついに「来たか」という感じです。
スペースX社の最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスク氏は、メキシコ・グアダラハラで開催されているIAC(国際宇宙会議)の席で、2024年に火星への有人探査機を、スペースX社が打ち上げると発表しました。

アメリカは2030年代なかばに有人火星探査を実施しようとしています。こちらはNASAが検討している計画ですが、スペースX社はそれを、10年以上も前倒ししようというのです。これを野心的といわずしてなんというべきでしょうか。

スペースX社が公開しているビデオでは、火星探査に向けた全貌が紹介されています。

このビデオでは、有人宇宙船が先頭に据え付けられたロケット(おそらくファルコン9ヘビーの進化型)が、アメリカ・フロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げられる設定になっています。実際に探査を行う際にもおそらくはそのような形になるでしょう。
なお、この有人宇宙船は、現在スペースX社が開発中の有人宇宙船「ドラゴン」とは異なり、かなり大型です。おそらくは有人火星探査のために新規に開発する宇宙船とみられます。

打ち上げ後、第1段部分は回収され(これは現在スペースX社のロケットで盛んに試験が行われています)、打ち上げ地点へと自律的に戻ってきます。
そしてなんと、戻ってきたロケットにすぐに燃料補給用の別の宇宙船を据え付けて打ち上げ、宇宙空間で両者がドッキング、燃料補給を果たすというのです。
おそらく、有人宇宙船の重量と火星への飛行に必要な燃料との組み合わせで、この方法が最適とスペースX社では判断しているのでしょう。打ち上げコストもロケット再利用で劇的に安くなりますから(と、スペースX社は考えていますから)、2回に分けた打ち上げも特に問題はないでしょう。

宇宙空間で燃料補給を終えた宇宙船は、総量200キロワットの発電能力を持つ太陽電池パネルを展開、火星へと飛行します。
そして、(飛行期間は特にビデオでは明示されていませんが)火星に到着すると火星の大気圏へ突入、最後はロケット尾部で逆噴射して減速し、垂直に経つ形で着陸、4人の宇宙飛行士(ビデオにはそのように描かれています)が火星の赤い大地へと降り立ちます。

以上がビデオからの「火星探査計画」ですが、各種報道を総合すると、次のようなミッションになると思われます。
まず、火星への飛行期間は90日ほどになるとのことです。現在の無人火星探査機が、どんなに速いものでも半年程度かかることを考えると、まさに「革命的」というしかないスピードですが、これは効率のよい燃料を使って実現されるとのことです。
そして、行ったら戻ってこなければならない(マーズ・ワンのような「片道ミッション」は別として)わけですが、その際には火星にある水と大気中の二酸化炭素からメタンを作るというのです。

スペースX社、そしてそのCEO(最高経営責任者)であるイーロン・マスク氏が狙っているのは、単に火星へと行くことだけではありません。将来的に墓制に恒久的な基地を作り、人類が移住できるようにすることを目指しているのです。
イーロン・マスク氏によれば、今世紀中には火星において完全自立型(つまり、地球からの補給などを必要としない)のコロニーを今世紀中には実現したいとのことで、そのためには1隻あたり100人を輸送できる宇宙船を1000隻用意するとのことです。100✕1000=10万人を火星へ移住させるということでしょうか。
別記事では、火星移住を開始後、40〜100年で、最終的に完全自給自足可能な社会を構築できるとのことです。

問題はもちろん、いろいろあります。
まずは費用です。マスク氏は輸送システムの改革によって最終的に火星への輸送コストを500万分の1(500分の1、ではありません。500万分の1です)に低減し、1人あたりの予算を200万ドル(日本円で約2億円)にまで下げることを目指しています。乗船料を最終的には10万ドル(日本円で1000万円)にまで押し下げることを計画しているとの報道もあります。この1000万円という値は、現在計画されている民間レベルでの有人宇宙飛行(ただし、こちらは大気圏外の高度100キロ程度を数分飛行するというものです)とほぼ同じ額で、将来はこのくらいの額で火星への飛行を実現させるという、スペースX社、そしてマスク氏の並々ならぬ意気込みが伝わってきます。
ただ、意気込みはともかくとして、問題は「それができるのかどうか」です。別記事によれば、実現には初期投資だけで100億ドル(日本円で1兆円)が必要とされるとされています。マスク氏はそれを当面は私財で賄うとしていますが、政府資金などを含めて何らかの形での資金供給がなされなければ、当然この計画を実現することは不可能です。

またそれ以外にも、火星現地での食料生産や、実現までのスケジュールも課題です。
マスク氏も、「この種のこと(スケジュール)はあまり得意ではない」と述べており、実際に2024年にそのような計画が実現するかどうかはわかりません。

なお、火星移住に使用される宇宙船の名前は、「ハート・オブ・ゴールド」(Heart of Gold)となるそうです。

とにかく壮大すぎて、編集長(寺薗)のような現実的な人間にとっては「本当にできるの?」と、疑問符がいくつもつくような話ばかりではあります。しかし、スペースX社は創業10年を経たずして民間での宇宙輸送を実現させた会社ですし、イーロン・マスク氏はまさに伝説のCEOで、スペースX社をはじめ、テスラ・モーターズやペイパルなど、「不可能」と思われたところに切り込んでいってビジネスを行ってきた人でもあります。「あるいは」と思わせるのは、そのような実績と経緯があるからでしょう。

現時点では、スペースX社の該当ページにはユーチューブの映像が流れているだけですし、メディアに流れている数字もかなりまちまちで、正直なところどのようになっていくのか、またどのような計画なのかという全貌についてはわからないとしかいいようがありません。よくまとめられている宇宙開発専門ニュースサイト「sorae.jp」記事へのリンクを下に貼りましたが、ともかくはまず、今後のスペースX社の出方に注目といえるでしょう。