マーズ・サイエンス・ラボラトリー「キュリオシティ」の成功を受けて、NASAはこのほど、長期にわたる火星探査プログラム計画を発表しました。この計画の中には、2020年に打ち上げ予定の新しい無人探査ローバーが含まれています。この新しい計画は、NASAが今後も火星探査を精力的に行い、アメリカの科学的、そして将来の有人探査へ向けて努力していくことを示しています。
NASA長官のチャールズ・ボールデン氏は、「オバマ政権は長期にわたる確固とした火星探査計画に深く関与している。新しい探査で、私たちはアメリカが火星探査において世界トップの維持を維持できると確信している。と同時に、2030年代に有人火星探査を行うという私たちの目標に沿った重要な飛躍となるだろう。」という声明を発表しています。
この全体計画の中には、現在実施されているマーズ・エクスプロレーション・ローバー(「オポチュニティ」)、及びマーズ・サイエンス・ラボラトリー、さらには現在上空を周回している2つのNASA探査機「2001マーズ・オデッセイ」と「マーズ・リコネサンス・オービター」、及びヨーロッパが打ち上げている周回機「マーズ・エクスプレス」の探査も含まれています。
2013年には、メイバン(MAVEN: Mars Atmosphere and Volatile EvolutioN)という探査機が打ち上げられる予定です。この探査機は、火星の上空を周回しながら、主に火星の上層大気を探ることを目的としています。
2016年打ち上げ予定の「インサイト」(InSight)では、地震計を使った火星内部構造探査のほか、測地学的探査、熱流量測定なども行われる予定です。
2016年及び2018年にヨーロッパ宇宙機関(ESA)が実施する予定のエクソマーズ計画(ExoMars)には、「エレクトラ」と呼ばれる通信機器の提供(2016年打ち上げ予定の周回機)、及び生物探査関連の重要な機器(2018年打ち上げ予定のローバー用)のそれぞれの提供を行います。
今回新たに発表された2020年打ち上げ予定のローバーは、インサイト実施のわずか数カ月後の発表であり、現在のところ、これで7つのNASAの探査機が、現在、そして将来にわたって火星を探査することとなります。
またこの2020年の探査は、科学に関して最優先の目標を達成することを目指し、さらには2030年代の有人探査に向けた基礎調査ともなる予定です。
2020年打ち上げ予定のローバーについては、設計の基本をマーズ・サイエンス・ラボラトリーのものとし、ミッションの費用とリスクを最小にすることにしています。その一方で、大型ローバーを既存の技術で火星に送り込むことができるというメリットもあります。
また、この2020年のローバーは、アメリカ学術研究会議(NRC)が2011年にまとめた惑星科学10年探査計画をより強力に推し進めるとともに、NASAに今年設けられ、NASAの火星探査計画を支援する火星探査プログラム計画グループ(Mars Program Programming Group)の検討内容に対する回答でもあります。
NASAの科学担当副長官であり、自身も宇宙飛行士でもあるジョン・グランズフェルド氏は、「火星探査計画の根本からの見直しという課題は、キュリオシティの着陸に至る『7分間の恐怖』から始まり、『7年間にわたるイノベーションの始まり』というところに行き着いた。」と述べています。「この計画は現時点での、及び予定されているNASAの火星探査に関する予算とも整合性があり、またキュリオシティによる素晴らしい探査成果も基盤としている。さらに、打ち上げ機会もしっかりと捉えている。」(グランズフェルド氏)
2020年のローバーに搭載する機器については公平な競争により決定され、この指揮はNASAの科学探査部門が指揮することになります。この機器決定の過程は、現在進められている科学目標決定チームの検討結果が出次第実施される予定です。
この計画は2013年度の大統領決定の予算5カ年計画に沿ったものであり、また条件次第では若干の予算計上も考えられます。また、今回の計画は、NASAの宇宙技術プログラム、有人探査・運用ミッション部門との協力のもと進められ、さらには海外との協力の可能性もあります。
※編集長注…エクソマーズ計画は、当初はESAとNASA共同の計画となるはずでしたが、NASAは予算分担ができないとして今年1月に撤退を表明しています。今回の発表では、エクソマーズ計画に対しては機器の提供を行う(が、それにとどまる)ということになったようです。
また、今年3月の時点では、NASAは2018年ころに何らかの探査を行う見通しと発表していましたが、今回2020年に新たな探査を実施すると発表したことは、その「2018年」の探査が2年ずれ込んだと考えてもよいでしょう。
2020年は現時点で発表されている2013年からの5カ年予算の枠から外れます。NASA予算は来年(2013年)から大幅な削減が行われることが決定しており、特に月・惑星探査分野ではその影響が顕著です。この5年間にももちろん2020年ローバーのための予算は必要となりますが、組立時期が2018年以降となれば、最も予算が必要となる時期を先送りすることも可能で、予算削減の影響を最小限に抑えることができると考えられます。
この5年間、あるいは2020年までの7年間の計画をみると、すでに決定しているメイバンとインサイト(小型火星探査)以外には機器提供に留めるということで、ボールデン長官が述べていた「火星探査における世界トップの維持」が果たして可能なのかという点については、私は少々懐疑的です。ヨーロッパの動向はもちろんですが、中国やインドなど新興国の月・惑星探査が盛んになってくれば、この座も揺らぎかねないと思われます。
また、今後の検討次第では、2020年のローバーについても規模縮小などの可能性もあります。いずれにせよ、今後のNASAの検討状況を注視していく必要があるでしょう。
・NASAのプレスリリース (英語)
  http://www.nasa.gov/home/hqnews/2012/dec/HQ_12-420_Mars_2020.html
・これからの火星探査 (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/future.html
・2001マーズ・オデッセイ (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/2001MO/
・マーズ・エクスプロレーション・ローバー (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/MER/
・マーズ・エクスプレス (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/MEX/
・マーズ・リコネサンス・オービター (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/MRO/
・マーズ・サイエンス・ラボラトリー (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/MSL/