月の表側の重力を精密に測定することを目的に、今年(2011年)9月に打ち上げられたNASAの月探査機「グレイル」が、間もなく月周回軌道へと投入されます。
このグレイルは、2機の探査機からなる珍しい構成の探査機ですが、このうち、グレイルAの月周回軌道への投入はアメリカ太平洋標準時で12月31日午後1時21分(日本時間では2012年1月1日午前6時21分)、グレイルBの軌道投入は約1日遅れて、同じくアメリカ太平洋標準時で2012年1月1日午後2時5分(日本時間では1月2日午前7時5分)の予定です。
月までの距離は約40万キロ。ロケットで直行すれば数日の距離です。実際、アポロ宇宙船は月まで3日半(片道)の飛行でした。ところが、グレイルは飛行に要するエネルギーを節約するために、遠回りの軌道を通って月に向かっているので、打ち上げから3ヶ月以上もかかる行程になっているのです。今回のグレイルが飛行する(した)距離はほぼ400万キロにも上り、月への直行ルートに比べるとおよそ10倍も「回り道」をしたことになりますが、その分飛行に要するエネルギーはずいぶん節約できています。
また、飛行時間が長いことにより、探査機に搭載されている超安定発振器(Ultra Stable Oscillator)に安定して長期にわたり電源が供給されることから、この中核的機械が、ミッション開始前から安定して動作するようにできる、という利点もあります。
12月28日の時点で、グレイルAは月から約10万6000キロの距離に、グレイルBは12万8000キロの距離にあり、それぞれ時速1200キロ、時速1228キロで飛行しています。
軌道投入の際には、両探査機はまず月の南側へと向かい、月の南極上空を飛行します。月周回軌道に入るために探査機は減速を行います。この減速の際には探査機に搭載されているロケットを噴射することになりますが、その時間は、グレイルAで約40分、グレイルBは約39分間です。探査機のスピードはそれぞれ時速688キロ、691キロ減速することになりますので、周回軌道に入るためにほぼ速度は半分以下にまで落ちます。
軌道変更を行ったのち、探査機の軌道は、1周約11時間半の極軌道に近い軌道になります。そのあと数週間かけて軌道を変更し、最終的には1週2時間の月周回軌道へと修正されます。科学観測の開始は3月からの予定で、軌道は極軌道に近いほぼ円の軌道になります。科学観測実施時点での高度は55キロメートルと、非常に低い高度を飛行することになります(ちなみに、「かぐや」の飛行高度は約100キロ、中国の月探査機「嫦娥1号」の飛行高度は約200キロでした。高度が低いほど月の不安定な重力の影響を受けるため、探査機の寿命が短くなります)。
科学観測が始まると、2機の探査機は精密に互いの距離を保ったまま飛行します。互いの距離は電波を精密に測定することで知ることができます。探査機は月の上空を飛行しながら、互いの速度差(相対速度)の差を調べることによって、月の重力の精密な測定を行います。例えば、大きな山、あるいは「マスコン」と呼ばれるような重量のある物質が地下にあるような、重力の大きい地域を飛行すると、互いの距離がわずかながら伸びます。
このような重力の強弱を精密に測定した上で、最終的には月の(表側の)極めて精密な重力地図を作成する、というのが、グレイルのミッションです。
この地図から、月の表面、あるいは地下がどのようになっているかを知ることができるだけでなく、月がどのようにしてできたのか、そしてどのようにして進化してきたのかについての手がかりも得られると期待されます。
グレイル計画のプロジェクトマネージャーであるジェット推進研究所(JPL)のデビット・レーマン氏は、「私たちのチームは伝統的な新年のお祝いは行わない。しかし、2機の探査機が月の周りの軌道に入ることで、すばらしい興奮と喜びを味わうことができるだろう。」と述べています。
また、グレイル計画の主任科学者であり、長年月の重力についての研究を行っているマサチューセッツ工科大学(MIT)のマリア・ズーバー教授は、「この探査で得られた成果は、必ずや月に関する教科書の内容を書き換えることになるだろう。2機の探査機は月への長い飛行中正常に運用されており、科学機器についても全テストを完了している。その結果は、私たちが目指す科学観測に見合うものになっている。」と、科学観測開始への期待を語っています。
・NASAのプレスリリース (英語)
http://www.nasa.gov/home/hqnews/2011/dec/HQ_11-426_GRAIL_Highlights.html
・グレイル (月探査情報ステーション)
https://moonstation.jp/ja/history/GRAIL/