NASAの火星ローバー、マーズ・エクスプロレーション・ローバー「オポチュニティ」が、このほど非常に白っぽい岩脈を発見しました。この岩脈の成分は石膏とみられており、水が関与して堆積したものである可能性が非常に高いものです。この岩脈を詳しく分析することで、かつて火星に水が豊富であった時期の状況についてより詳しく知ることができるかも知れません。
この発見は、サンフランシスコで開催されているアメリカ地球物理学連合(AGU: American Geophysical Union)の年次総会で発表されました。
今回オポチュニティが発見した石膏とみられる岩脈は、太さが1〜2センチ(人間の親指の太さくらい)、長さは40〜50センチメートルあります。元になっている岩からはみ出したような感じになっています。このローバーの調査によって、現在探査を行っているエンデバー・クレーターの縁の周辺領域に、このような岩脈が分布していることがわかりました。これまで90ヶ月(およそ4年)にわたって周辺領域を調査してきたオポチュニティですが、少なくともこのような特徴を持つ岩石は、このクレーターに到達する周辺約30キロ範囲内ではみつかっていません。また、クレーターの縁にも存在していません。
先月、オポチュニティに搭載された顕微鏡カメラとアルファ粒子・X線スペクトロメーター、さらにはロボットアーム先端のパノラマカメラも使用して、この岩脈(「ホームステーク」(Homestake)と名付けられました)についての詳細な調査が実施されました。その結果、スペクトロメーターのデータから、高いカルシウムと硫黄が存在していることが確認され、その比率から、この岩脈はほぼ純粋な硫化カルシウムで構成されていることがわかりました。
この硫化カルシウムですが、自然界には様々な形で存在します。特に、硫化カルシウムの中にどのような形で水分子を取り込むかによって、その存在形態は大きく変わります。硫化カルシウムの水和物(硫酸カルシウム)が石膏なのですが、いくつかのフィルターでのスペクトルデータから、この岩脈の硫化カルシウムは石膏の形になっていることがわかりました。
これまでにも火星で石膏が見つかった例はあります。また、火星の高緯度地域の寒く風が強く吹く砂漠のような地域は、石膏が広く分布するアメリカ・ニューメキシコ州のホワイトサンズ国立公園のような場所とよく似てはいます。
ただ、「石膏を含む砂がどこからやってきたのかは謎のままだ。」と語るのは、オポチュニティの科学チームメンバーである、コロラド州ボールダーにある宇宙科学研究所(Space Science Institute)のベントン・クラーク研究員です。「ホームステークでは、そこで結晶ができたというのがわかっている。つまり、火星の他の領域にこのような堆積物が存在するかどうかというのが問題だ。」というのが彼の意見です。
さて、この堆積物が石膏であれあるいは他の形態での硫化カルシウムであれ、いずれにしても起源は火成岩であると考えられます。硫黄と結びついた鉱物が火成岩からしみ出すか、あるいはガスの形で噴出し、地下の割れ目のところに硫化カルシウムとして堆積し、それがいま岩脈としてみえていると考えられるのです。
これまでのオポチュニティの行程において、このローバーはマグネシウムや鉄、あるいはカルシウムの硫化物を含んでいる岩石の上を走ってきました。これらの存在はいずれも、過去数十億年前には、火星に液体の水が存在した環境があったことを示す証拠でもあります。ただ、これまでオポチュニティが観測してきた堆積物はいずれもかなり酸性度が強い環境での堆積を物語っているのに対し、今回の堆積物はそれよりかなりマイルドに、中性に近い環境で堆積したものとみられます。
クラーク研究員は、「おそらく異なるタイプの環境の水の中で堆積したのだろう。つまり、私たちはさらに新たな、生命に適した環境が存在したことを発見したことになる。」と述べています。
ホームステーク、そして同様の岩脈は、硫黄に富む堆積物が、エンデバー・クレーターにある、より古い火成岩と接する箇所に存在しています。この場所が、岩脈生成の手がかりになるかも知れません。
探査の副主任科学者であるワシントン大学のレイ・アービッドソン氏は、「このような岩脈が、このクレーターの縁の周辺領域ではなく、平原の他の領域にも存在するのかどうかを知りたい。その答えとしては、古い時代からの近くに含まれている地下水が上昇し、ケープ・ヨーク近隣の物質を通り抜けて、その中に含まれていた成分がこのような岩脈として堆積することになった、ということかも知れない。というのは、この物質はマグネシウムや鉄の硫化物に比べて、水に溶けにくいからだ。」と、この白っぽい物質の起源についての推測を述べています。
探査責任者のコーネル大学のスティーブ・スクワイヤーズ教授は、「今回の発見は、地下の岩石の割れ目に水が存在したというどんぴしゃりの証拠となった。今回の堆積物は非常に純粋で、ちょうど我々がみているこの場所で堆積したことは間違いない。これはこれまでオポチュニティが発見してきた田の水に関連した堆積物、あるいは火星でみられた石膏とは異なる点だ。地球ではあまり普通ではないが、火星ではそうではないということだ。地質学者が椅子から転げ落ちるような大発見といえる。」と、やや冗談めかしてその意義を語っています。
・NASAのプレスリリース (英語)
  http://www.nasa.gov/home/hqnews/2011/dec/HQ_11-403_Mars_Rover_Gypsum.html
・マーズ・エクスプロレーション・ローバー (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/MER/