NASAが打ち上げた木星探査機ガリレオの科学データから、木星の衛星エウロパの地下に、液体の海が存在する可能性が示されました。この水の量は相当な量に上り、推定ではアメリカ大陸にある五大湖の水の量にも匹敵するとのことです。地球とエウロパの大きさの違いを考えると、この水の量の多さは相当なものということができます。
また、エウロパの表面を覆う氷の近くと海との間には相互に物質のやりとりがあり、このことは、エウロパの液体の地下海に生命が存在しうる可能性について議論に一石を投じるものとなりそうです。この成果を記した論文は、科学雑誌「ネイチャー」に掲載されます。
1989年に打ち上げられた木星探査機ガリレオは、長期にわたって木星とその衛星系を調べました。木星には、「ガリレオ衛星」と総称される、特に大きな4つの衛星があります。そのうちの1つがエウロパです。
このガリレオ探査機のデータ解析により、木星の地下に海、それも塩水の海(地球のような海ということです)が存在することがわかりました。この海はエウロパの全表面(地下ですが)を覆うくらい深く、また水の量は地球の海の量よりも多いと推定されました。しかし、太陽から遠いこともあり、海の表面は完全に凍り付いており、その層の厚さは数十キロメートルにも達すると科学者は考えてきました。
この分厚い氷の層は、表面との物質のやりとりを妨げてしまうと考えられ、生命の存在にはかなり否定的な材料と考えられてきました。ところが、今回の研究で、この氷の層と内部の海はかなり密接な物質のやりとりを行っているばかりか、新たに浅い部分に大きな湖が存在することが明らかになりました。
研究グループは、ガリレオ探査機が撮影した写真の中で、ごつごつした表面を持っているエウロパの領域、いわゆる「カオス領域」という部分を撮影した2枚の写真に注目しました。地球の氷河などでみられるような氷の運動理論を応用し、研究グループは、このような地形構造がどのようにできあがるのかを、4つのステップとして明らかにしました。このモデルは、これまで氷の層について、写真データから厚いとも薄いともいわれてきた観測結果を統一的に説明することに成功しています。
この考え方では、このカオス領域と呼ばれる場所は、表面の氷部分と、その地下にある液体の水の領域とで盛んな物質の移動があることを示しているのだということです。このことは、表面から有機物やエネルギーなどが物質を通して地下の液体部分、さらには海の部分へと運ばれる可能性を示唆しています。このため、この研究結果は、エウロパ内部には生命に適した領域が存在するという可能性を大きく広げる結果であるともいえます。
研究チームは、今回の研究結果に自信を持っているものの、湖自体が地下十数キロメートルに存在すると推定され、表面から観測することができないため、この存在を確かめるためには将来の探査機による観測しかないと断言しています。現在のところアメリカ学術研究会議(NRC)が主導して進めている惑星科学十年探査計画の中で、重要度第2位として検討されている探査が、まさにこのようなエウロパの地下探査機計画です。
NASAの宇宙生物学部門長のマリー・ボイテック氏は、「今回の研究は非常に説得力のある成果といえるが、一方で、世界中の科学者は、私たち(NASA本部)が評価を下す前に、今回の研究やデータについて精査を行う必要がある。」と述べています。
・NASAのプレスリリース (英語)
  http://www.nasa.gov/home/hqnews/2011/nov/HQ_11-386_Europa_Water.html