15日(アメリカ東部現地時間)に小惑星ベスタの周回軌道に投入された探査機ドーンから、このベスタの表面を撮影した詳細な写真が送られてきました。
写真は航法の目的で撮影されており、これまでにみたこともない細かさで、ベスタの地表の状況が映し出されています。ドーン探査機がベスタの周回軌道に入った際の距離は、ベスタからおよそ16000キロメートルで、技術者の推定によると、周回軌道に入ったのは午後10時頃(アメリカ東部現地夏時間。日本時間では7月16日午前11時頃)とみられています。

はじめて探査機で撮影されたベスタの表面

上の写真が、はじめて撮影された小惑星ベスタの表面です。撮影距離はおよそ1万5000キロメートル。1ピクセルはおよそ1.4キロメートルになります。

ベスタの南極領域

こちらは、ベスタの南極領域です。大きな山があるのがわかります。クレーターや溝があるほか、極端にでこぼこした領域(クレーターなどが多い領域。山の周囲)と、そのまわりにクレーターが少ない平らな領域が存在するのがわかります。

ベスタの南極領域(立体視用)

同じく南極領域の写真ですが、こちらは立体仕様です。立体視用の青・赤メガネを持っていれば、山や谷などが立体的にみえるはずです。

ベスタと他の小惑星との比較

こちらは、ベスタと、探査機がこれまでに訪れた小惑星との大きさの比較です。右側は、上から、ルーテシア、マチルデ、イダとその衛星ダクティル、エロス、ガスプラ、シュテインス、アンネフランク、そしてイトカワです。イトカワはベスタと比べると、ピクセルの大きさほどもないくらいの大きさ(小ささ)です。


ベスタの直径はおよそ530キロメートル。小惑星帯の中では2番目に大きな小惑星です。発見以来2世紀にわたり、地上観測、そして宇宙望遠鏡での観測がこれまで行われてきました。しかし、これほどの細かさで地表をみたことは、かつてありませんでした。
地球に降り注ぐ隕石は、その多くがベスタ起源だと考えられています。現在、ベスタは地球からおよそ1億8800万キロメートル離れています。
ドーンの観測チームは、8月から詳細な科学観測を開始、太陽系の起源などを理解するほか、将来の有人小惑星探査にも役立てられるデータを取得することになります。
ドーンはまた、小惑星までの28億キロの飛行により、探査機の最長推進距離記録を達成しました。この間にイオンエンジンにより得られた加速はおよそ毎秒6.7キロメートルに達します。
ドーンの主席技術者であり、NASA/JPLの技術者でもあるマーク・レイマン氏は、「ドーンはゆっくりと穏やかに、ベスタの周回軌道に入っていた。それは、惑星間空間をイオンエンジンで飛行しているときと同じくらい、穏やかなものだった。太陽系の内側で、まだ私たちが訪れていない未知の世界の画像の様子を届けることができるということで、非常にわくわくしている。」と語っています。
「私たちはついに、太陽系最古かどうかという議論がなされている天体の研究に入ったところだ。この領域(小惑星帯の天体を指す)はあまりにもこれまで長い間無視されすぎてきた。いまのところ、送られてきた画像を見る限りでは、ベスタの表面は太陽系の古い様子をそのままとどめているようだ。ただ、できてから数十億年にわたって、いろいろな天体の衝突も受けてきたであろう。」こう述べているのは、ドーン計画の探査責任者である、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のクリストファー・ラッセル氏です。
なお、周回軌道投入には成功したものの、ドーンのベスタへの接近にはさらに3週間ほどかかります。この間に、ベスタの周囲に衛星がないかどうかの調査、航法目的でのさらに多くの写真の取得(正確な軌道を決めないと、ベスタの重量や大きさを決定できないため、運用に影響が出てきます)、ベスタの物理的性質の調査、そしてデータを校正するためのデータ取得など、いわば科学観測に向けた準備を行っていきます。
また、運用の過程では、ベスタの重力によるドーンの引っ張られ具合をみることで、これまでとは比べものにならないほど正確にベスタの重量を測定することになります。これにより、実際に周回軌道に投入された時刻をより正確に決定することができるようになります。
今後、ドーンはベスタの周囲を約1年にわたって周回して観測します。その後、次の目的である準惑星ケレスへと出発し、到着は2015年2月を予定しています。