水星探査機メッセンジャーの科学チームはこのほど、2008年1月と10月に行った探査機の水星フライバイの際に発見された、水星表面の新たな地形(クレーター)について、国際天文学連合(IAU)に対して申請していた命名提案が承認されたと発表しました。
水星は英語でマーキュリー(Mercury)といい、芸術の神様であることから、水星の表面の地名には芸術家の名前がつけられます。今回新たに命名された10の地形(クレーター)にも、世界各国の芸術家の名前がつけられており、その中には日本の葛飾北斎にちなんだものもあります。
メッセンジャーの探査主任科学者であるカーネギー研究所のシーン・ソロモン教授は、「IAUが今回の申請を迅速に承認してくれたことをうれしく思う。名前がつけられたことで、科学研究が一層加速すると期待できる。」と語っています。
では、その10の地名を順番にみていくことにしましょう。なお、名前などには読み方の問題が伴うので、原語表記も付記します。

■ベック (Bek)
古代エジプト第18王朝のアクエンアテン(Akhenaten)王(=アメンホテプ4世)の宮廷首席彫刻家。活躍時期はだいたい紀元前1340年頃。「アマルナ様式」と呼ばれる独特の自然主義の流れに沿った芸術スタイルを作り上げた。
■コープランド (Copland)
アメリカの作曲家、アーロン・コープランド(Aaron Copland, 1900-1990)にちなむ。コープランドは合奏曲や映画音楽の作曲者として、またピアノ演奏家としても有名。アメリカ風の作曲スタイルを広く浸透させたことで知られる。
■ドビュッシー (Debussy)
フランスの作曲家、クロード・ドビュッシー (Claude Debussy, 1862-1918)にちなむ。印象主義音楽の代表的な音楽家であり、19世紀から20世紀にかけてヨーロッパを代表する音楽家でもある。
■ドミニシ (Dominici)
マルタの彫刻家、画家のマリア・デ・ドミニシ (Maria de Dominici, 1645-1703)にちなむ。宗教記念日に行われる街頭行進で掲げられる宗教画を描いたとされる。
■フェルドスィー (Firdousi)

ペルシャの有名な詩人・作家、ハキム・アブ・カシム・フェルドスィー (Hakīm Abu’l-Qāsim Firdawsī Tūsī, 935-1020)にちなむ。イラン最大の大作叙事詩『シャー・ナーメ』(『王書』)の作者である。
■ゲデス (Geddes)
アイルランドのステンドグラス芸術家で、美術工芸運動(アーツ・アンド・クラフツ運動)のメンバーでもあった、ウィルヘルミナ・ゲデス (Wilhelmina Geddes, 1887-1955)にちなむ。当時の芸術嗜好に反旗を翻し、男性像をステンドグラスで描くなどの芸術を試みた。
■ホクサイ (Hokusai)
日本の浮世絵師、葛飾北斎(1760-1849)にちなむ。江戸時代の傑出した画家であり、唐絵(中国絵画)や木版画をなじめとして、富嶽三十六景などの大作や神奈川沖浪裏などの浮世絵でその名を知られる。
■キップリング (Kipling)
イギリスの詩人・作家のラドヤード・キップリング (Rudyard Kipling, 1865-1936)にちなむ。短編小説分野での偉大な業績がある。『ジャングル・ブック』の作者。
■ピカソ (Picasso)
スペインの画家・デッサン家・彫刻家、パブロ・ピカソ(Pablo Picasso, 1881-1973)にちなむ。キュビズムと呼ばれる芸術運動の創始者の1人として知られ、幅広い分野にわたって数多くの作品を残した。
■スタイケン (Steichen)
アメリカの写真家・画家・美術館学芸員であったエドワード・スタイケン (Edward Steichen, 1879-1973)にちなむ。同じくアメリカの有名な写真家、アルフレッド・スティーグリッツが主催した写真雑誌「カメラワーク」でもっとも頻繁に取り上げられた写真家。

・メッセンジャーウェブサイト上のニュース (英語)
  http://messenger.jhuapl.edu/news_room/details.php?id=143
・メッセンジャー (月探査情報ステーション)
  http://moon.jaxa.jp/ja/pex_world/MESSENGER/