ドーンがベスタに到着して1年近く経ちますが、このほどNASAから、探査の新しい情報が発表されました。驚くべきことに、ベスタにはこれまで小惑星には発見されていなかったような種類の地形も存在することが明らかになりました。
ベスタは小惑星帯に属する大きな小惑星であり、また肉眼で地球から見ることができる唯一の小惑星でもあります。それだけ明るい天体だ、ということなのですが、今回ドーンの探査により、ベスタの表面の中には他の領域の2倍も明るい場所が存在することがわかりました。おそらくこれは、ベスタの進化の歴史と大きな関係があるものと思われます。
メリーランド大学カレッジパーク校の研究者でドーン計画に参画している科学者であるジン・ヤン・リー氏は、「この明るい物質はベスタ起源と考えられ、おそらくはベスタが誕生してからほとんど変化していない。この明るい物質がどのような鉱物から構成されており、またベスタの表面がどのようにして現在のようになったのか、それこそが私たちがいまもっとも知りたいことである。」と語っています。
この明るい領域はベスタの全般にわたって分布しており、中でもクレーターの内部、そして周辺に最も広く分布しています。その領域は数百メートルから20キロほどまでと幅があります。ベスタに衝突した物質がこの領域に露出し、また広がっているようにみえます。この衝突過程で、明るい物質と表面のより暗い物質とが混じり合ったようです。
ベスタが以前ハッブル宇宙望遠鏡により観測された際には、確かに明るい物質が分布していることは発見していましたが、今回ドーン探査機により直接観測されるまでは、これほど広くまたはっきりと分布しているということは科学者たちも予想していませんでした。一方、ベスタ表面の暗い物質はダークグレー(濃い灰色)であったり、あるいは茶色や赤いものもあります。衝突クレーターの周りに小さくはっきりとした模様として現れることもあります。一方でかなり大きな領域としてみつけられる場合もあります。特に、衝突クレーターの周りを囲むようにして現れる場合もあり、科学者たちはこの模様のことを「雪だるま」と名付けました。
アリゾナ州立大学タンパ校のドーン計画の科学者デビッド・ウイリアムズ氏は、「驚いたのは、この暗い物質がランダムに分布しているわけではないということだ。おそらく、地下の地質プロセスがこの分布を決めているのだろう。」と推測しています。
この暗い物質は衝突、及びその衝突のあとの過程と関係していると考えられます。科学者たちは、炭素質に富む隕石が低速で衝突することで、その物質が飛び散ることなく表面に分布したと考えています。
一方で、高速で衝突した小惑星もありそうです。こういった小惑星の衝突は、ベスタ表面の物質を溶かし、その結果として玄武岩質の溶岩を生成したと考えられます。これにより、既にあった表面はさらに暗くなった可能性があります。このようにしてできた溶融れき塊は、クレーターの壁や床など、あるいは丘や尾根などに分布しています。また、クレーターから放出された物質である「エジェクタ」と呼ばれる明るい物質の下にも分布しています。
ベスタの暗い物質から、この小惑星は小惑星帯、あるいはもっと遠い場所の古い物質がまだ残されており、おそらく太陽系誕生当時の物質も存在している可能性があります。
ドーン計画の科学者で、ジョンズホプキンス大学応用物理研究所に所属するブレット・デネビ氏は、「過去に起きた衝突のいくつかはかなり大きなもので、そのため表面を溶かしてしまったようだ。ドーン探査機の撮像能力で、この溶融の跡をみつけることができた。このような溶融は予想はされていたが、小惑星ではこれまでみつかってこなかった。」と述べています。
・NASAのプレスリリース (英語)
  http://www.nasa.gov/home/hqnews/2012/mar/HQ_12-091_Dawn_Vesta_Features.html
・ドーン (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/pex_world/Dawn/