ダート 探査の概要

■地球への小惑星衝突の脅威を減らすための探査…小惑星の軌道変更にチャレンジ

ダート (DART: Double Asteroid Redirection Mssion)は、将来起こりうる小惑星の地球衝突問題の解決方法の一つとして提案されている「小惑星の軌道変更」(軌道変換)技術を実証するために打ち上げられる探査機です。

小惑星が地球に衝突する…かつて6500万年前、地球に直径10キロメートルサイズの小惑星が衝突し、その影響で恐竜をはじめとして多くの生物が絶滅に追いやられた、という話は皆さんご存知かと思います。しかし小惑星の衝突はそれが終わりではありません。6500万年前に衝突したクラスの小惑星の衝突は1億年に1回程度と見積もられています。もし同じような衝突が次に起きれば、人類の絶滅、という事態も起こりうるのです。
そこまでではないにしても、数十メートルサイズの小惑星が地球に衝突したとしても大きな被害がもたらされます。2013年、ロシア・チェリャビンスクで十数メートルの小惑星が大気圏に突入、その際に発生した衝撃波で1000人以上がケガをするという事態が発生しました。
小惑星の地球衝突は、大きなものであれ小さなものであれ、人類文明に何らかの影響(ダメージ)を与えることになります。人類がこれからも存続していく上で考えなければならない大きな問題であるといえるでしょう。

では、小惑星の地球衝突を防ぐためにはどうすればよいでしょうか。
地球に近づいてくる小惑星を止める、というのは難しいことです。相手は大きな天体です。ロケット数個程度では全く役立ちません。
いま考えられている方法の一つが、核爆弾による小惑星の破壊、ないしは軌道変更です。映画でも核爆弾を使って小惑星を破壊するシーンをみたことがある方もいらっしゃるでしょう。確かにこの方法は今の人類の技術でも実現可能ではありますが、問題がないわけではありません。
例えば、破壊が予定通りにいかなかったら? 衝突によって発生した無数の破片が地球に降り注いだら? 核爆弾を使って、小惑星を予定通りの軌道に乗せることは可能なのか? そもそも、宇宙空間で核爆弾を爆発させてよいのかという根本問題もあります。

小惑星の地球衝突を避けるためにはほかの方法もあります。
地球衝突を防ぐためには小惑星の軌道を変えればいいわけですが、それを核爆弾ではなく、例えばロケットを小惑星に取り付ける、あるいは物体を衝突させるなどして実現させるという方法です。
小さなロケットや物体で果たしてうまくいくのか、と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、軌道をごくわずか変えるだけでも地球衝突を防ぐことができますし、変更後の軌道を予測しやすいので、このような方法の方が現実的であるともいえます。
とはいえ、実際に小惑星の軌道を私たちが変えたことはありません。

そこで登場するのがこのミッション「ダート」です。小惑星(今回は小惑星の衛星)に物体を衝突させ、それによって生じる軌道変化を観測、将来の小惑星軌道変更に向けた技術の蓄積を行おうというのがこのミッションの目的です。

■目標は衛星を持つ小惑星ディディモス

ダートが目指すのは「ディディモス」 (Didymos)と名付けられた小惑星、正確にいえば、その衛星「ディモルフォス」(Dimorphos: 英語の発音では「ダイモーファス」が近い)です。

ディディモスは1996年に発見されました。地球に近い公転軌道を持つ、「地球近傍小惑星」と呼ばれる小惑星のグループに属します。つまり、地球衝突の可能性がある小惑星の一つでもあるというわけです。

このようなこともあり、発見されてから、地上から望遠鏡やレーダーなどで多くの観測が行われ、ある程度その姿が明らかになってきました。

レーダー観測によるディディモスとその衛星の姿

レーダー観測によるディディモスとその衛星ディモルフォスの様子。観測は2003年11月下旬に、プエルトリコにあったアレシボ天文台で行われた。天文台から電波を小惑星に向けて発射し、その反射の様子から形状を測定するもの。14回にわたる観測の様子をまとめている。小惑星本体の上方に小さく写っているのが衛生ディモルフォす。
Photo: NASA

 

ディディモスとディモルフォスの想像図

観測データ(光度曲線及びレーダーによる観測)に基づいて作成された、ディディモス(大きい方)とその衛生、ディモルフォスの想像図。ディディモスの大きさはさしわたし780メートル、ディモルフォスの大きさは160メートルほどと推定されている。ディディモスの時点速度は非常に速く、2.26時間で自転する。ディモルフォスは主天体であるディディモスの周りをを11.9時間で公転する。地球近傍小惑星の6分の1が、こういった衛星を持つと考えられている。
Photo: Naidu et al., AIDA Workshop, 2016

ディディモスは典型的な地球近傍小惑星としても注目されています。
はやぶさ2」が探査したリュウグウ、オサイレス・レックス(オシリス・レックス)が探査したベンヌは、まるで同じ小惑星かとみ間違えるほど似た形をしていました。そろばん玉、あるいは単に「ひし形」と形容されるその形は、実はこのディディモスも同様だろうと考えられています。

これらの天体が似たようなひし形をしている理由は、その速い(あるいは「速かった」)自転速度にあると考えられています。非常に高速で自転しているため、天体の物質が遠心力で赤道へと流れ、赤道に張り出した形になったと考えられています。
実際ディディモスの自転時間は2.26時間(約2時間16分)と非常に高速です。ベンヌも自転時間が約4時間17分です。リュウグウもかつては高速で自転していたと考えられています。このような高速な自転を引き起こす(引き起こしていた)機構については未だわかっていません。また、それが地球近傍小惑星の典型的な特徴であるとすれば、地球近傍小惑星を理解するための一つの鍵となることでしょう。

また、地球近傍小惑星は意外にも衛星を持つ小惑星が6分の1に及ぶとされています。衛星がどのような機構によって生み出されるのかを知ることは、これもまた地球近傍小惑星の誕生や進化の謎に迫ることにつながるでしょう。

ダートは小惑星の科学観測を主要な目的とはしていませんが、搭載されているカメラ(DRACO: Didymos Reconnaissance and Asteroid Camera for OpNav)によりディディモス及びディディムーンの観測が行われ、その素性が明らかにされることが期待されます。

■2021年11月に打ち上げ、2022年9月に衝突実験を実施

ダートは2021年11月24日に打ち上げられる予定です。

打ち上げ後、ダートは太陽光を利用して発電された電気で推進する太陽電気推進システムで飛行し、2022年9月、目的地のディディモスに到着します。そして、本体はそのまま衛星であるディモルフォスに体当たりします。

衝突によるディモルフォス、及びディディモスの軌道変化は地球からも確実に観測されると考えられます。衝突後の地球からの観測によって、衛星の衝突が小惑星の軌道にどのような変化を与えるかを調べます。これにより、どの程度の天体の衝突により小惑星の軌道をどの程度変化させることができるのかを知ることができます。
また、衝突までは搭載カメラによる小惑星の観測も実施される予定です。

さらに、5年後の2027年には、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が打ち上げるヘラ(Hera)という探査機が同じディディモスに赴きます。
ヘラはダートが衝突することによって形成されたクレーターの観測を行うほか、ディモルフォスの体積などの詳細な観測を行い、ダートによる衝突の結果をさらに詳細にまとめるために役立つデータを提供します。もちろん小惑星の表面なども詳しく観測します。

ダートとヘラという2つの探査機はいわば1つのミッションと考えることもでき、その際にはアイーダ(AIDA: Asteroid Impact and Deflection Asessment)と呼ばれることがあります。

なお、ダートはジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所(JHUAPL)が主体となって開発が行われました。搭載されるカメラ(DRACO)は、同じJHUAPLが開発した冥王星・カイパーベルト天体探査機「ニューホライズンズ」に搭載されたカメラ「広範囲カメラ」(LORRI)の設計を応用したものです。


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