打ち上げから20年、土星到着から13年。月・惑星探査史上最長であり、そして最大級といってもよいミッションが、いよいよその幕を下ろそうとしています。しかも、やや派手に。
NASAは5日、土星探査機カッシーニが今年9月に運用を終了して土星大気に突入すること、またそれに向けて最後のミッション、通称「グランドフィナーレ」を実施すると発表し、その概要を公表しました。

カッシーニの「グランドフィナーレ」における飛行の想像図

土星の北半球の上空を飛ぶ、最終ミッション「グランドフィナーレ」を実施中のカッシーニ探査機の想像図。これはグランドフィナーレにおける22回めの降下の際の状況。(Photo: NASA/JPL-Caltech)

ヨーロッパとアメリカ共同の探査機であるカッシーニは1997年10月に打ち上げられ、7年をかけた旅の末、2004年6月についに土星に到着しました。土星を周回しながら探査する探査機は史上初です。それまで土星は通りすぎて探査する(フライバイ)方法でのみ観測されただけでした。

期待通り、カッシーニは土星本体、そして土星の数多ある衛星についての驚くべきデータを多数送ってきました。
土星本体の大気の流れ、土星を特徴づける壮大な輪についての詳細な写真が送られ、土星本体についても多くのことがわかってきました。
さらに衛星については、カッシーニと共に土星に向かった着陸機「ホイヘンス」が2005年1月、分厚い(地球の1.6倍ある)大気を通り抜けて無事着陸に成功しました。そしてホイヘンスがみた光景は、メタンやエタンの海や川からなる、なんとなく地球に似た感じもする、しかし極彩色の有機物に彩られた極寒の世界でした。人類は、地球からは想像もできないはるか果ての世界の画像・映像に驚愕し、興奮したものです。
そして、土星の小さな衛星、エンケラドゥスに水の間欠泉が存在することも発見しました。水が吹き出ているということは、地下に水…海が存在する可能性があります。そして水があるということは、ひょっとするとエンケラドゥスの地下には生命が宿っている可能性があるかも知れません。
その他にも、ここでは書き切れないほどの成果、数えきれないほどの美しい土星の世界の写真を地上に送ってきました。あまりにたくさんの写真が送られてきていて、月探査情報ステーションでもなかなかご紹介できていませんが、NASAのページや写真集、科学雑誌などでご覧になった方も多いと思います。
月探査情報ステーションでも、ホイヘンスの着陸は実況中継(ヨーロッパから送られてくる映像をもとに状況を随時更新)していたので、編集長(寺薗)としても思い出深い探査機です。
しかし、どのような探査にも終わりはやってきます。長寿のカッシーニであってもそれは例外ではありません。

NASAによりますと、カッシーニのミッション終了は本年(2017年)9月15日(アメリカ現地時間)です。NASAはこの最後のミッションを「グランドフィナーレ」と呼び、最後の、そして最後しかできない数多くの観測を行う計画を立てています。
カッシーニのミッション終了は、搭載燃料がなくなってきたことによるものです。本体だけで4.6トンもある巨大な探査機だとはいえ、燃料を無限に積んでいるわけではありません。土星やその衛星の周りを飛行しながら、カッシーニはその燃料を上手に使って軌道を修正してきましたが、その燃料がそろそろ尽きようとしています。
2010年、NASAはカッシーニの燃料がなくなる時期を2017年と判断してその時点でのミッション終了を決断、最終的に土星大気に突入する形で探査機を消滅させる決定を下しました。大変もったいない話のように思えますが、用を終え、制御ができなくなった探査機がいつまでも土星周辺、あるいは太陽系内に存在することは、将来の宇宙開発にとって危険を伴います。さらに、もしカッシーニの軌道が変わって土星の衛星などに衝突することになれば、搭載している原子力電池のプルトニウムが飛び散り、ひょっとしたらいるかも知れない生命に悪影響を与える可能性もあります。軌道が変わることも生命の存在も万が一、億が一の確率ですが、NASAは念には念を押し、そのような可能性がないよう、土星本体に飛び込ませて探査機を完全消滅させる決断を下したのです。

これから始まる「グランドフィナーレ」は、まずは土星最大の衛星、そしてかつて僚機ホイヘンスが着陸した衛星タイタンへの最後のフライバイから始まります。この最終フライバイは4月22日(アメリカ現地時間)が予定されています。
タイタンへはカッシーニはこれまで数えきれないほど(といいますか、たくさん)立ち寄り、観測を行ってきましたが、これもまさに最後となります。
タイタンに近づくことによりカッシーニは軌道を変え、土星の輪の外側を周回しながら飛行するようなコースをとることになります。輪は非常に小さな(数センチレベルの)粒子、あるいは石や氷からできていると考えられるため、探査機にとっては危険ですが、このようなリスクを犯すことができるのも最後のミッションならではです。これにより、土星本体や輪について、新しい発見が得られることが期待されています。

さらにカッシーニは、土星本体と、輪のいちばん内側の間を飛行するという離れ業もやってのけることになります。
この、本体と輪のいちばん内側の間の空間の飛行は4月26日から始まり、合計で22回、このたった2400キロの幅しかない領域を通り抜けることになるそうです。
「こんな領域を22回も通り抜ける探査機などというのは全く存在しなかった。このカッシーニの最後のミッションによって、この巨大な惑星がどのようにしてできたのか、そして太陽系自体がどのようにしてできたのかを知ることができるだろう。最後に向けて、新たな発見に挑むのだ。」(NASAの科学ミッション部門長のトーマス・ザーブーチェン氏)

当然ながら、その飛行は危険が伴います。地球から見れば何もないすき間のようにみえる領域ですが、そこには数センチレベルかも知れないにしても石や氷があります。それらが秒速数キロで飛ぶ探査機にぶつかってくる(その石や氷自体もそのくらいの速度で飛んでいる)のです。もしぶつかったら…いうまでもなく、探査機はその瞬間に最後を迎えます。
「我々のモデルによれば、探査機に何らかのダメージを与えるほどの大きさの粒子(石や氷など)がこの内側の領域にある可能性がある。しかし、カッシーニは探査機に搭載された(地球通信用の)巨大アンテナをいわば盾としながら最初は飛行し、その後の軌道では安全を確認しながら科学機器を作動させて観測を行う。まちがいなく未知の領域に踏み込むことになるが、探査の最後にやるべきことはまさにこのようなことであると確信している。」(カッシーニ計画のプロジェクトマネージャー、ジェット推進研究所(JPL)のアール・メイズ氏)

そして9月半ば、タイタンに少しだけ近づいたあと、探査機の軌道は土星本体へと落下する方向へと変わります。
最後は9月15日、土星大気への落下の日です。しかし、カッシーニは最後の最後、通信電波が途絶えるまで、観測データを地球に送り続けます。土星の大気がどのような成分、構造からなっているからを調べる、本当に最後のミッションを達成し、土星の奥深く、彼方へと消え去っていくことになります。

グランドフィナーレにより、科学者たちは、土星内部の構造や輪の構成、土星大気の成分や構造などが解明できると期待しています。さらに非常に近い距離から観測することにより、土星本体の上空にある雲の様子や内側のリングの様子も詳しく観測できるかも知れません。
現在カッシーニのチームでは、グランドフィナーレの観測プログラム(観測シーケンス)の最後の点検を行っており、問題がなければ、探査機に4月11日(アメリカ現地時間)に送信される予定です。この指令が送信されたとき、カッシーニの「最後の時計」が動き出すことになります。
はかなくも、ワクワクするミッション。グランドフィナーレで何が見つかるのか、そしてそれがどう終わるのか。この半年、世界がふたたび、土星に目を向けることになりそうです。

「グランドフィナーレは最後の大気突入よりもより多くのものをもたらす。まさにこの偉大なる探査の最終章を刻むものなのだ。そして、終わり方が明確に決定されている探査において、科学的に大きな成果をもたらしてくれることだろう。」(カッシーニ計画の科学者、JPLのリンダ・スピルカー氏)