月面で穀物や野菜などの作物を栽培するためには、作物の生育に適した環境を持った栽培設備が必要になります。
この設備では、植物の生育に必要な光、二酸化炭素、水、栄養分を適切に供給し、内部の空気環境の温度や湿度を制御し、光の昼夜のサイクルを制御してやらねばなりません。

作物の栽培には一般に次のようなものが必要です。

物質

水, 二酸化炭素(CO2), 養分(チッ素, リン, カリウム, カルシウム, マグネシウム, ケイ素, イオウ, 鉄, マンガン, ホウ素, 銅, 亜鉛, モリブデン, 塩素)

環境

光 (光量、明暗サイクル),温度,圧力(チッ素が必要)

これらの物質は、地球から運ぶことになるでしょう。水以外の物質は必要となる量が少ないので、当面は月面で生産するより地球から運ぶ方が経済的だと思われます。水は他の物質に比べ桁違いの量が必要となるので、再生処理して再使用し必要量を減らす工夫がいります。それでもまだ多くの水が必要になるでしょう。この水も今のところ地球から運ぶしかありません。月での農業で最大の課題は水の確保となるでしょう。また、人の吐き出す二酸化炭素や廃棄物から発生する二酸化炭素を利用することが考えられますが、この二酸化炭素は生命維持システムで水や酸素として再利用する可能性も考えられています。

植物の栽培には必ずしも土を必要としません。地球の土のように少し手を加えるだけで作物の栽培に適した土になるのと違い、月の土壌を作物の栽培に適した状態にするにはかなりコストがかかります。養分の管理、水の回収再利用など栽培システムを適切に制御できるという観点からは、土を使わない栽培方法の方がよりメリットがあるといえます。
その他に考慮しておく問題として、月の低重力(地球に比べ6分の1)と放射線の問題があります。低重力で作物がどのように生育するかについての十分なデータはまだありません。栽培装置としては無重量の場合よりは技術的にずっと楽になります。
強い電離放射線は、短期的影響と長期的(遺伝的)影響が考えられますが、これもまだ十分にわかっていません。電離放射線を防ぎながら太陽の光をうまく利用する方法を考えるのも、月面の農業の課題のひとつです。