月面ローバーというのは、月面を動き回るための車のことです。
月に行ったら、なるべく広い範囲にわたって、いろいろなことを調べたいと、誰しも思うはずです。しかし、例えば着陸機を降ろしただけでは、その周辺数メートルだけを調べられるのがせいぜいです。
宇宙飛行士が歩いて回るのはどうでしょうか。しかし、数十キログラムもある装備を背負って、宇宙線や強烈な太陽光線が降り注ぐ月面を何時間も歩いて調べまわるのは危険も伴いますし、効率的ではありません。
そこで、月面をより素早く動き回ることができるよう、自動車のように手軽に使える乗り物があると便利です。これが、ローバーと呼ばれるものです。

最初にローバーが登場したのは、旧ソ連が打ち上げた、ルナ17号という探査機です。この探査機は1970年11月15日に打ち上げられました。ルナ17号には、ルノホート(Lunokhod)とよばれるローバーが積まれていました。
ルノホートは6輪の車輪で動きました。この車輪は、それぞれが独立に動くようになっていて、月面で砂などに車輪を取られても、残りの車輪で動けるように工夫されていました。4つのテレビカメラや、土壌計測装置、その他X線蛍光スペクトロメータなど、様々な観測装置を搭載していました。


ルノホート1号 (Photo by NASA)
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同じ頃、アメリカのアポロ計画でもローバーが登場しました。
ローバーはアポロ15号(1971年7月26日打ち上げ)から使われるようになりました。こちらは宇宙飛行士が乗れるほど大型のもので、これにより宇宙飛行士の行動範囲を飛躍的に広げました。例えば、アポロ14号では、宇宙飛行士の行動範囲はせいぜい1.5キロメートル程度でしたが、ローバーが導入されたアポロ15号では、行動範囲が約4キロメートルの範囲内にまで広がりました。
ローバーは2人乗りで、長さ3.1メートル、幅1.83メートル。4つの車輪にそれぞれ4分の1馬力の電気モーターがついていて、最高時速は13キロメートルでした。電力は蓄電池で供給されていました。
ローバー自体の重さは209キログラムで、軽く作られていました。このローバーには最大で、490キログラムの重さの荷物を載せることができました。


アポロ15号のローバー (Photo by NASA, AS15-86-11603)
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ローバーには、月面の広い範囲を動き回ることができるという利点があります。また、たくさんの測定機器やサンプルを載せて一度に移動させることができますので、限られた滞在時間の中で、効率良く探査を行うことができるようになります。
一方で、ローバーには難しい問題もあります。特に、無人のローバーとなりますと、いろいろと問題が出てきます。
まず、操縦の問題です。地球と月の間は、光でも往復2秒かかります。月から送られた画像を見て、それをもとにローバーを操作していると、数秒の遅れが生じることになります。急に目の前に障害物が出てきたとき、とっさに避ける操作をしなければならないのに、数秒も遅れてしまうと大変なことになるかも知れません。そのためには、自分で障害物を検知して、避ける能力が必要になります(これを「自律制御」といいます)。
車輪についても、ゴムは厳しい月面の環境では使えませんので、金属などを使うことになります。
その他にも、砂や岩石と車輪との関係や、障害物を検知してどう進んでいくかなど、ローバーには様々な技術を結集していく必要があります。

日本でも、無人のローバーについては様々な研究が行われています。宇宙航空研究開発機構 (JAXA)では、将来の月面探査に向けて、月面ローバーの試作を進めています。下に示した写真は、重さ350キログラムの大型のローバー試作機ですが、その他にも、小型のローバーの開発が進められています。
また、いろいろな大学などでの開発も進んでいます。


ローバー(月面車)走行研究モデル (Photo: JAXA)
出典: JAXAデジタルアーカイブス (P-019-05680)
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ところで、ローバーは日本語に訳すると「月面探査車」「月面車」と呼ばれることがありますが、最近では火星に着陸したマーズ・パスファインダーマーズ・エクスプロレーション・ローバーなどでもローバーが活躍していますので、「火星面車」ではなく、そのまま「ローバー」と呼ぶことが多くなりました。
また、ローバーは英語のつづりでは “rover” と書きます。この “rove” には、「うろつく」「さまよう」という意味があり、その意味では月面を動き回るものにはぴったりの表現ということになります。


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