自分の位置を決めるのは、月面であろうと地球上であろうと重要です。このためにはいろいろな方法があり、また、月探査の段階によって変わってくると思われます。

1. 地上や衛星からの同定
この方法には、地上、あるいは上空を周回する衛星から、直接月面の人工物(着陸船やローバーなど)を撮影する方法、また、あらかじめ撮影した地上の様子(地図、あるいは写真)を元に、周辺の様子などから位置を決める方法があります。
その際にまず大まかな位置を決めるのは、着陸船やローバーが発する電波の方向などです。これによりまずどの方向から電波がやってきているのかを知ることができます。そのあと、実際に探査機などで写真を撮影し、正確な位置を決めていきます。

現在の段階で用いられているのはこの手法で、手法としては、基本的にアポロの時代とあまり変わりません。しかし、観測精度が飛躍的に上がっているため、位置をより正確に決めることができます。例えば、現在月を周回しているルナー・リコネサンス・オービターは、最高で50センチメートルという精度で写真を撮影することができます。そのため、上空から直接着陸船やローバーを撮影し、位置を同定することもできます。
このような高精度の撮影ができない場合には、地上からの観測、衛星からの観測を組み合わせることになります。

2. 地上固定点からの位置測定
地上の様子が高い精度で地図として表すことができたあとは、その地図をたよりに位置を同定することができます。
このケースが想定されるのは、着陸船とローバーの組み合わせです。着陸船は動かないので、位置を高い精度で決定できます。1.の方法でこの着陸船の位置を高い精度で決めておけば、あとは動き回るローバーの位置を決めることになります。
これには、ローバーから発する電波を使い、電波の到達時間などから位置を決める方法、レーザー光線などを着陸船から発射する(あるいはローバーから着陸船に向かって発射する)ことで、その到達時間などから位置と方向を決める方法があります。
また、ローバーにジャイロを搭載し、ローバーの動きをずっと記録していくことで、いまローバーがどの位置にいるかを知るという方法もあります。
ローバーについては、特にこれらの手法を組み合わせることで、位置を決めていくことになるでしょう。また、1.で述べたような衛星からの同定も組み合わせることが可能です。

3. 測地衛星を用いる方法
月探査が進み、実際に月に人が長期にわたって定常的に滞在する、そして、月の広い範囲にわたって行動するようになってきた段階では、さらに進んだ方法が必要になります。その手法としてもっとも有力なのが、測地衛星を用いるやり方です。
測地衛星は、私たちがカーナビや携帯電話などで位置を決める際に使う衛星で、アメリカが打ち上げているものであればGPS、ヨーロッパであれば「ガリレオ」などがあります。精密な原子時計を積んだ衛星を何基も上空に打ち上げて、衛星を4つ以上視界にとらえ、その電波を受信しながら電波の到達時間を計算することで、位置を極めて正確に決めることができます。現在のGPSの精度では数十センチメートルの精度での位置決定が可能です。
このような測地衛星を月の周りに打ち上げることで、月面のどこでも高精度で位置を知ることができるようになります。将来はこのような「月面インフラ」が活躍し、月の上どこでも人間が動きやすくなることでしょう。

いずれにしても、このような位置を決めるためには、まず月の地図が整備されていることが必要で、そのためにも周回衛星のデータを使って、月の形を決めたり、地形をより精密に測定することが必要です。「かぐや」やルナー・リコネサンス・オービターなどのデータがこのために用いられることになるでしょう。


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