技術的な点からいえば、私たちは既に月面基地を作れるだけの能力を持っているといってもよいでしょう。
アメリカ・ロシア・日本やヨーロッパなどが今作ろうとしている国際宇宙ステーション (ISS)は、何ヶ月以上にもわたって人間が宇宙に滞在するための施設です。月面基地でも人間が滞在しますが、それは最初は、月の昼間だけ(14日間)になると思われます。そうなると、滞在するという点からいえば、月の方が宇宙ステーションよりも条件は緩いということになります。

問題は月と地球を往復するための手段ですが、これもアポロで既に実現していますから、当時の技術を「復活」させることができれば、問題ないことになります。
あとは、月面という環境をどう克服するかという問題が残っていますが、これも宇宙ステーションで経験を積んでいけば、解決不可能という問題ではありません。

つまり、技術的には月面基地は今すぐにでも作れるといってもよいでしょう。問題は、経済的、政治的なものといってもよいでしょう。
アメリカのNASAなどでは、火星への有人飛行計画を計画していますが、それに先立って月面に基地をつくって、火星への前線基地にしようという計画がありました。NASAの火星飛行計画は2030年代半ばとされていますから、その頃には月面基地がないといけないことになります。
月探査に熱心な中国も、その究極の目標は月面基地です。現在のところ、中国の月面基地は2030年代に完成するのではないかと予想されています。

日本の多くの技術者も、2020年頃には最初の月面基地を作りたいと考えています。最初の月面基地は、上でも述べたように、月の昼間だけ宇宙飛行士が滞在するような基地になるのではないかと思います。
日本では、内閣府の宇宙戦略本部の下に位置づけられている月探査懇話会が、月探査に関する将来計画を発表していますが、その際の究極の目標は、2020年代以降に、月面に人が滞在できるような場所を設ける、ということです。また、JAXAが発表している長期ビジョン「JAXA2025」でも、2025年頃には日本独自の月面基地を設置するという構想を出しています。

ただ、これらの構想は、一時的に人が滞在する基地にとどまっています。常に人がいるような月面基地ができるのはもっと先、おそらくは2040~2050年頃になってしまうのではないでしょうか。


将来の月面基地想像図(イラスト: JAXA)
イラストをクリックするとより大きな絵をご覧頂けます