月の探査、そして月基地建設へ

月面基地想像図 ギリシア神話に登場する月の女神SELENE(セレーネ)。その名が冠された日本の月探査ミッション「SELENE PROJECT」は、NASDAとISASの協力で進められている 

[注1]。H-IIAロケットを用い、2003年頃に日本独自の月探査を実施しようという計画だ [注2]
 このプロジェクトの詳細は後の回に譲るとして、いましばらく夢の世界を旅してみよう。月探査がすんだ次の段階として待っているのが、無人システムの建設と運用だ。月面に建設用のロボットを送り込み、月面基地に必要な施設を次々に作っていくわけである。

極地点付近に作られる月面基地

 まず問題となるのは、建設する場所だろう。月の表側(地球側)の赤道近くでは、半月の昼と半月の夜が交互に訪れ、夜の間のエネルギー供給という点で問題が大きい。天体観測に有利な月の裏側も、同様の問題に加えて地球と交信しにくいという難点がある。建設用ロボットは遠隔操作されるから、これはまずい。そこに人間が常駐するという段階になれば、交信のしにくさはさらに問題となってしまう。
 そこで有力視されているのが月の極地点付近だ。地球も太陽も見えるという安心感、宇宙船の離発着時の利便性など、この地点は有利なポイントが多い。すぐ近くの2地点に太陽エネルギープラントを作り、常にどちらかに太陽が当たっているようにしておけば、1年を通じてエネルギーが得られる。将来月の裏側に作られる観測基地へのアクセスも容易だろう。

無人基地稼動開始

 建設候補地が決まったら、そこへロボットと原料を着陸させる。人間が居住できる最低限の施設を作ろうと思ったら、スペースシャトルで30回以上、H-IIなら90回以上も物資を運搬しなければならない。無人基地ならそれより少ない回数ですむが、それでも数年間かかるたいへんな作業だ。
 地球から月への物資輸送にかかる労力やコストを少しでも抑えるため、月にある物質を原料として資材を製造することも考えられる。もちろん精密な観測機器などは無理だが、それらを設置する土台くらいは作れるはずだ。
 無人の月面基地が完成したら、そこでは各種の研究・実験が行われることになる。月の資源や地理、環境、エネルギー・材料・通信・土木工学などの月面上実証実験だ。それらのデータを生かしながら、並行して人間を迎え入れる準備も進められる。酸素や水、食料などの製造プラント、熱制御設備、居住モジュールなどなど。無人基地とは比べ物にならないほどの大規模な建設作業が必要となるだろう。
 そしてその先に待つのが、いよいよ「人間の月滞在」というわけだ。

[注1] 現在、NASDA(宇宙開発事業団)とISAS(宇宙科学研究所)は統合され、JAXA(宇宙航空研究開発機構)となっています。[注2] 現在、セレーネの打ち上げは2007年度を予定しています。

参考文献:岩田 勉著
2020年 日本人の月移住計画は もう始まっている

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このページは、1997年4月から1998年3月まで宇宙開発事業団(当時)の機関紙「NASDA NEWS」に連載された、「月がふるさとになる日」を移設したものです。記述内容に当時の状況を反映したものがありますが、オリジナル性を重視し、そのまま掲載しています。