月面 月。これほどまでに人類の生活や文化と密接に関わりあってきた天体は、他にない。はるか昔、暦は月の満ち欠けによって作られ、太陽暦で生活するいまもなお、1年は12の「月」に分割されているし、7日ごとに「月」曜日が訪れ
 月はまた、想像力をかき立てる存在でもある。作家ジュール・ベルヌは『地球から月へ』を著し、メリエスによる世界初の劇映画も『月世界旅行』だった。さらには「月の沙漠」「ムーンリバー」など歌にも多く歌われ、月並み、ハネムーン、クロワッサン(三日月)など、日常会話にも月はたびたび登場する。満月に吠える狼男、かぐや姫など、言い伝えや物語でも月は大きな役割を果たしている。
 観測の対象としても、月は科学者たちの興味を惹いた。エジプトなどの古代文明の天文学者たち、ギリシアのヒッパルコスやプトレマイオス、ガリレオ・ガリレイ、ニュートンなど、多くの学者が月の運動を計算し、表面を観察し、月を論じてきたのだ。
 月は、地球に暮らす人類の名脇役として、常にそばに寄り添ってきたといえるだろう。

人類、月面に降り立つ

 人類と月との関係が大きな転機を迎えたのは、1958年。この年、旧ソ連のルナ2号が月面に命中した。天空に明るく浮かぶ月は、にわかに、手の届く距離にまで降りてきたのだ。以来、米ソ両大国は月を目指して宇宙開発の覇を競いあうことになる。
 1959年、ルナ3号が月の裏側を撮影。1964年、米のレインジャー機が月に到達。1966年、ルナ9号と米サーベイヤー1号が相次いで月に軟着陸。1968年、アポロ8号により3名の宇宙飛行士が月を周回……。
 そして1969年7月16日。全人類の期待を担って、アポロ11号を搭載したサターンVロケットは打ち上げられた。打上げから約103時間後、着陸船イーグルが月面に着陸。さらに約6時間後、アームストロング船長が月面へ降り立つ。
 「ひとりの人間にとっては小さな一歩だが、人類の歴史にとっては大きな一歩だ」
 とうとう人類は、月をつかむことに成功したのである。

日本人、月を目指す

 このように人類と深いつながりを持つ月は、しかし、謎の多い天体であるともいえる。アポロ計画によって多大なデータがもたらされたとはいえ、まだまだ月に関するクエスチョンは数多い。
 その月を、いま日本は目指そうとしている。月にはウサギがいると信じ、蕎麦に落とした卵を月に見立て、十五夜に団子を食し、と情緒的に月と関わってきた日本人が、月に科学の目を向け、月をつかもうとしているのだ。
 月を目指す意味は? 日本人が月面に立つ日はいつやってくるのか? 果たして月には何が待っているのか?
 この連載では、人類が月で生活する日までの道のりをシミュレートし、日本による月探査計画のあらましをご紹介することにしたい。

参考文献:岩田 勉著
2020年 日本人の月移住計画は もう始まっている

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このページは、1997年4月から1998年3月まで宇宙開発事業団(当時)の機関紙「NASDA NEWS」に連載された、「月がふるさとになる日」を移設したものです。記述内容に当時の状況を反映したものがありますが、オリジナル性を重視し、そのまま掲載しています。