■なぞの天体、冥王星への旅

1930年に発見されて以来、冥王星は、いまだ人類の直接探査が及ばない唯一の惑星として残ってきました(2006年になって、冥王星は惑星ではなく、準惑星という新しい分類の天体となりました)。
望遠鏡による観測によって、衛星カロンの発見や、大気の存在などが明らかになっては来たものの、その表面の様子や大気の成分など、多くのことはいまだなぞとして残っています。また、冥王星の本体に比べて非常に大きな衛星であるカロンの誕生のなぞも、冥王星の形成の上で興味のある問題です。
さらに、1990年代になり、冥王星よりさらに遠くに、直径1000キロを越えるような巨大天体が多数存在することが発見されてきました。これらの天体はカイパーベルト天体(エッジワース・カイパーベルト天体: EKBO)と呼ばれていますが、これらの天体は地球からの観測では点として写るだけで、その実体はまだよく分かっていません。
さらに、冥王星自体がこのカイパーベルト天体である可能性も多くの科学者から指摘されています。
こういった太陽系の最遠部の天体の素顔を明らかにするために計画されたのが、このニューホライズンズ計画です。

■人類がはじめて見る冥王星の姿

ニューホライズンズの旅は10年以上にもわたる壮大なものです。
打ち上げは2006年1月19日(日本時間では1月20日)に行われました。打ち上げからわずか9時間で月の軌道を通り過ぎるという速度は、人類が打ち上げた探査機の中でも最速のものです。しかし、その最速の探査機をもってしても、冥王星に到達するためには9年の歳月を必要とします。
打ち上げ約2年後になる2007年2月25日には木星に最接近(フライバイ)し、ここでスイングバイによって探査機を加速しました。
冥王星への最接近の前、2014年12月には探査機が「冬眠」状態から起動しました。そして、最接近を行う2015年7月14日の数カ月前から観測を行いました。
冥王星とその衛星カロンへの最接近は同じ日に行われました。冥王星には最大9600キロメートル、カロンには27000キロメートルにまで近づきました。その際には、最大解像度25メートル/ピクセルの、詳細な冥王星の写真が得られました。ニューホライズンズは、再接近時に写真をはじめとする大量のデータを取得し、そのデータ量は50ギガバイトにも達します。
2015年7月14日のフライバイの際には、人類がはじめて見る冥王星の姿に世界中が熱狂しました。とりわけ、冥王星の表面に存在するハート型の地形は多くの人たちを惹きつけました。さらに、4000メートルを超える高山や平らな平原など、冥王星が氷に閉ざされた「面白くない天体」ではなく、かなり活動的な天体であることを伺わせる証拠が次々に上がってきています。
同じように、冥王星最大の衛星カロンについても詳細なデータが得られ、赤道部に存在する巨大な谷(そのスケールはアメリカのグランド・キャニオンをも越えます)、高い山など、小さな衛星には考えられない地質活動を示す痕跡が明らかになりました。
なぜこのような活動が起きているのか、それは今後の研究によって明かされていくことになります。それは、冥王星のような天体がどのようにして誕生し、進化したのかを実証していくことにつながっていきます。

■ニューホライズンズの旅はカイパーベルト天体へ

ニューホライズンズは、冥王星再接近後、さらにカイパーベルト天体の探査を行うことになりました。
ニューホライズンズが次に向かう天体は、現時点(2016年11月現在)ではまだ名前がついておらず、仮符号で呼ばれている、2014 MU69という天体です。その仮符号通り、2014年に新しく発見されたカイパーベルト天体です。
大きさは直径が45キロ程度とみられています。望遠鏡による観測では、全体に非常に赤いことがわかっていますが、それ以外についてはほとんど何もわかっていないというのが現状です。
冥王星以上に何もわからないこの天体へ、ニューホライズンズは再び最接近し、フライバイを行います。人類が冥王星以上に知らないカイパーベルト天体…わずか数年前に見つかった天体への最接近は、2019年1月1日が予定されています。