このほど、講談社ブルーバックスの最新刊として、佐伯和人さんの手になる「世界はなぜ月をめざすのか」という本が発売されました。

著者の佐伯和人さんは大阪大学理学研究科宇宙地球科学専攻の准教授です。実は、編集長(寺薗)とは学生時代からの仲間でして、佐伯さんの方がちょっと上の先輩にあたります。地質学の知識から(当時の)最新のコンピューターゲームまで(その後研究室で大はやりして大変なことになりましたが)、いろいろなことを教えてくださった方です。今でも、月探査をはじめ、宇宙科学・宇宙開発の様々なシーンでお世話になっています。

この本は、最新の月探査の知識をまとめた上で、これから先、とりわけ日本が進むべき道に対しての提言からなっています。

「世界はなぜ月をめざすのか」表紙

「世界はなぜ月をめざすのか」表紙。初版本は、表紙の月が凹凸を再現したエンボス加工になっている。

本の章立ては以下のようになっています。

  • 序章 月探査のブーム、ふたたび到来!
  • 第1章 人類の次のフロンティアは月である
  • 第2章 今夜の月が違って見えるはなし
  • 第3章 月がわかる「8つの地形」を見にいこう
  • 第4章 これだけは知っておきたい「月科学の基礎知識」
  • 第5章 「かぐや」があげた画期的な成果
  • 第6章 月の「資源」をどう利用するか
  • 第7章 「月以前」「月以後」のフロンティア
  • 第8章 今後の月科学の大発見を予想する
  • 第9章 宇宙開発における日本の役割とは
  • 終章 月と地球と人類の未来

章立てをご覧になるとお分かりかと思いますが、前半では月や月科学の基本をていねいに解説し、後半では最新の月探査、とりわけ日本の「かぐや」の意義や成果について重点的に解説しています。
さらに、将来の月探査として資源という点にも着目、これからの月探査の流れを占っています。その流れの中で日本がどうしていくべきか、第9章には最も多くの分量が割かれており、著者の月探査(日本の月探査)への熱い思いが伝わってきます。

月探査情報ステーションでもこれまで、サイト内の解説はもちろん、メールマガジンのコラムなどを通して、月探査のトレンドや現在・今後の過大などを語ってきましたが、なかなか知識をまとめるという点ではこれまで私もできてこなかった部分があります。この本は、こういった月探査の過去・現在・未来の流れに、さらに基礎的な知識などが1冊のコンパクトな新書にまとめられ、「これだけ読めば月探査はバッチリ」という本に仕上がっているというのはさすがだと感心します。

また、こういう書籍では往々にして表現が難しかったり難解な単語が出てきたり、さらには数式が飛び出したりするようなこともあるのですが、この本は非常に読みやすく、一般の方でもサラリと読みこなせるような内容になっています。私としては、特に宇宙開発、宇宙科学を志す高校生にぜひ、読んで欲しいと思います。
編集長自身が、中学・高校生の頃にブルーバックスをたくさん読んで理系を志したという経歴を持っていますので、いまの高校生の皆さんにも、こういうわかりやすく知識と情報を伝える本を読んで欲しいのです。

価格は920円(税別)。初版本は、月の表紙が、凹凸(エンボス加工)がつくという非常に凝ったものになっています。ちなみにこの凹凸、単純につけられているわけではなく、「かぐや」のレーザ高度計のデータをもとにした凹凸になっているのです。日本の探査があげた素晴らしい成果を、本を手にするときにいつも感じられるというわけです。

編集長も全力でおすすめする1冊です。月が美しい秋の夜長、「読書の秋」のお供に、ぜひ皆様もお読みいただき、遠くて近い月に思いを馳せてください。