スマートフォンなどを中心としたオンラインゲームを中心としたエンターテイメントを手掛けるKLab(クラブ)株式会社は、18日、JAXAと協力し、月探査のハッカソンを実施すると発表しました。

KLabが実施するハッカソンのウェブサイト トップページ

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月・惑星探査関係者にとっては「ハッカソン」という言葉は聞き慣れないかも知れませんが、編集長も含め、IT関係者の間ではここ数年ですっかり定着した言葉です。
ハッカソンとは、コンピュータープログラムなどを徹底的に追求する「ハック」(hack)と、マラソンをかけた言葉です。「ハック」という言葉は、よくそれを実行する人という意味で「ハッカー」と使われ、その言葉自体はいまではあまりいい意味を持たなくなってしまいました。しかし、本来「ハックする」といえば、例えば既存のプログラムをよりよくする改良を行ったり、まったくないとこから(一から)プログラムを作り上げてハードウェアを動作させる、といった、プログラミングの腕前を使っていまある環境をよくすることを指します。特に、それが困難であればあるほど、「ハック」はやりがいがあるとされます。
とはいっても、いまの技術者は(学生も含めて)みな忙しく、なかなかゆっくりとハックしている時間はありません。そこで、週末などの限られた時間を使って一気にプログラムを作るイベントが増えてきました。その時間だけハックに集中するというわけです。場合によっては徹夜なども行って一気にプログラムをつくり上げるわけです。休みなしにハックを続けることから、「マラソン」という言葉をかけて「ハッカソン」というわけです。
世界各地、日本各地で、このようなハッカソンの試みが増えてきました。大抵は複数グループ(個人の場合もある)が1つの目的のためにプログラムなどを作成し、その中でもっとも優秀と認められたものに対して商品を出すような仕組みです。

今回のハッカソンの目的は、ズバリ「月探査」、それも、月の縦穴探査計画である「うずめ計画」です。
うずめ計画はまだ検討段階ですが、これを実際に将来、探査計画として実行する際に発生する(であろう)、いろいろな問題に対処することがこのハッカソンの目的です。

例えば、月と地球とは、電波(光)の速度での往復で2.5秒ほどの時間がかかります。こちらが発した指令が相手(ローバーや着陸機など)に伝わって、その結果が戻ってくるまでにそれだけの時間が必要になるわけです。精密な制御が要求される探査では無視できない時間差です。
また、地球上では高速な通信を行うことが可能ですが、月面と地球とではせいぜい10メガbps程度の速度でしか通信できません。いまの携帯電話(LTE)が200メガbps以上の速度で通信できることを考えると、この速度でいかに多くの情報を月と通信するかという課題も出てきます。

こういう制約条件だけではなく、実現したい課題などもあります。
例えば、単にコマンド(指令)だけで操縦するのではなく、あたかも自分がローバーの操縦桿を握っているかのようにして操縦できればうれしいですね。このような技術は、いまはやりのVR(仮想現実)、あるいはAR(拡張現実)とも関連します。
また、現地の様子をいちいち送ってもらってこちらから指示するのではなく、ローバー自身が地形の様子などを判断して自動的に動いてくれればかなり助かります。このようなローバー自身の動き(自律制御)ができることも理想ではあります。
今回の月探査ハッカソンでは、縦穴を探査するということを前提に、最新のコンピューター技術を投入した成果を出すことが期待されています。KLabが公開している成果の例を挙げましょう。

  • 周辺環境の3Dモデルなどを高遅延低帯域ネットワークで送る圧縮方法やプロトコルの実装
  • 周辺環境の3Dモデルのセンシングやマッピング技術の開発
  • ロボットソフトウェアや遠隔操縦ロボットのシミュレーターなどのゲームエンジン連携やネットワーク化
  • 操縦データの学習の仕組み開発
  • 月面探査のシミュレーションや制御、チェックのネットワーク上協働環境の開発(ネットワークゲーム技術の応用など)

このように、月面探査とはいっても、その技術は現実の地球のコンピューター技術の進展にも十分応用できるものです。また、KLabが手がけるゲームの技術などにもフィードバックされることが期待できます。

このハッカソンは11月11日(土)〜12日(日)の2日間、それぞれ午前10時から午後7時までの間に行われます。
場所はKLab本社です。この2日間で、参加チームが出したいと思う成果を作り上げることになります。

なお、参加は無料です。学生については交通費(国内旅費のみ)と宿泊費(必要になる場合)は無料です。社会人参加の場合は交通費・宿泊費は自己負担となります。
10月30日までチームのエントリーを受け付けています。その後、審査並びに抽選を行い、11月2日までには選ばられたチームに連絡が行きます。11月6日〜7日にかけて最終参加意志の確認を行い、本番に臨むことになります。

うずめ計画を主導するJAXA宇宙科学研究所の春山純一氏は、

この機会に、より多くの方々に、月探査に興味を興味を持って頂くとともに、実際にハッカソンに参加いただく皆さんには、月探査に立ちはだかる様々な困難を問題の設定から始め、多様なアイデア、アプローチにより、その困難の突破を試みていただきたいと思います。 日本の、そして世界の月探査は、今やJAXAといった国家の宇宙機関や、一部限られた研究者だけによるものでない、新しい時代を迎えようとしています。 是非、ふるって「月探査ハッカソン」に御参加下さい。

と述べています。また、KLabのCTO(最高技術責任者)である安井伸氏は、「そして今回、月というフロンティアに、日本の宇宙開発をリードするJAXAと共催でチャレンジする機会を企画できたことをうれしく思います。 」と意義を強調した上で、

世界的なIT企業が宇宙開発にチャレンジしている昨今、我々もゲームで培った幅広い技術で宇宙開発に貢献できるのではないか?という、一見無謀な挑戦ですが、 参加者の皆さんと一緒に、ユニークなアプローチで課題解決に取り組み、ハッカソンを楽しめることを期待しています。

と、ハッカソンに寄せる期待を明らかにしています。

こういった宇宙開発に関連したハッカソンとしては、NASAが主催する「スペースアップスチャレンジ」(Space Apps Challenge)が有名です。これも週末の2日間に、宇宙に関する様々なプログラムを作り上げ、その優秀さやアイディアのユニークさなどを競うのもです。こちらは世界中で実施される一大イベントに発展しています。
今回の月探査ハッカソンは、JAXAが協力する形としては、月・惑星探査関連でははじめての試みではないかと思います。

今やIT技術は宇宙開発にも必須となっています。日本はどちらかというとこのような宇宙とITとの結びつきはこれまでやや弱いところがあったかと思いますが、今回のような試みでその点を一気にカバーできれば、これから先非常に面白い未来が待っていると思います。もちろん、うずめ計画自体にも大きな進展をもたらすことを期待したいところです。

なお、ハッカソン参加に際してはいろいろな条件があり、また「いつ何をしなければならない」といった細かな規則があります。
われこそは、と思う方は、下の「月ハッカソンのページ」を必ずご一読の上、条件を確認した上で、エントリーを行って下さい。
多くの方、とりわけITに興味を持つ若い方がこのイベントに参加することを、編集長としても願っています。