最新の地震解析技術を用いた研究により、月の中心部に、地球に似たコア(核)があることがわかりました。この研究の成果は、科学雑誌サイエンスの電子版に掲載されています。
月の内部がどのようになっているか、とりわけコアの有無やその大きさは、月がどのような形でできたのかを決定づけるための重要なデータとされています。また、月に過去に磁場があったことが明らかになっていますが、コアの存在は、その磁場がいつ頃まで存在していたのか、どのくらいの強さの磁場を保持していたのかを知る手がかりともなります。今回の研究は、こういった議論にも大きな影響を与えるものとなりそうです。
この研究チームの解析結果によると、月には鉄に富んだ半径約240キロ程度の固体の内核が存在し、その外側に、鉄に富む液体からなる半径約330キロ程度の外核が存在するとみられます。このコアの二重構造は地球とよく似ていますが、地球とことなる点として、地球の場合には、半径500キロくらいのところに、部分的に溶けたような場所があることですが、月は外核全体が溶けているという点です。
また、コアの中の成分には、硫黄や酸素などといった軽元素が存在するとみられています。
今回の研究で使われたデータは、アポロ時代に設置された地震計のデータです。アポロ受動地震波実験(PSE: Passive Seismic Experiment)と名付けられたこの実験では、月面に展開された地震計で月の自然地震を検出する実験を行っていました。地震計は1977年9月まで稼働していました。
このデータを、「アレイ手法」という方法を使って解析しています。この手法は、異なる地震を組み合わせることで、より詳細に地震波を解析するものです。研究者たちは月内部を地震波がどのように伝わってきたのかを解析し、月の内部がどのような物質でできているかを調べました。
今回の研究を主導したNASAマーシャル宇宙センターのレニー・ウィーバー氏は、「過去のデータが、地球上の地震波に使われる最新の解析技術を使ってよみがえり、月のコアの直接検出につながった。」と述べています。
今回のチームは、彼のほかにアリゾナ州立大学やカリフォルニア大学サンタクルズ校、フランス地球物理学研究所の研究者が加わっています。
月についてはいくつかの周回探査が行われて表面の様子はかなりわかってきていますが、内部構造については月の最大の謎の1つでした。過去、研究者によりコアの存在が指摘されたことは何度かありますが、その大きさ、あるいは存在そのものについての推定根拠はなかなかはっきりしたものではありませんでした。そのため、コアの有無、そしてその半径についても研究者間で意見はまちまちでした。
これまでの地震波の研究で大きな限界とされてきたのは、月の表面付近で発生する地震波の散乱に起因する、地震波の乱れでした。今回解析グループでは、「スタッキング」と呼ばれる手法を用いています。スタッキングとは、地震波をコンピュータ上で重ね合わせることで信号をよりはっきりと見つけ出しやすくする手法です。
ウェーバー氏は、将来さらにアポロ時代の月震データの解析を進め、コアのより詳しい物質や大きさの推定につなげたいと述べています。
また、今年はグレイルという月探査衛星が打ち上げられる予定になっていますが、グレイルは月の重力場を詳細に調べる衛星です。これによって、特に月の内部構造の解明にも大きな進展が期待されますが、今回の研究はそのための大きな一歩となることでしょう。
(編集長注) 一般的に天体の内部がどのような構造になっているかを調べるために最も有効な方法は、内部を伝わる地震波を調べて、その波の速度や形から判断する方法です。地球ではこの方法で、内部が非常に精密にわかってきています。
地球外の天体で地震計を持っていったことがあるのは、今のところ月と火星だけです。しかし、アポロ計画当時に設置された地震計は、感度がよかった半面、設置場所が月表面であったことなどからノイズがひどく、解析には向かないということで最近ではあまり研究がなされないままでした。火星にはバイキング計画で地震計が設置されましたが、こちらは風の影響がひどく、自然地震を確実には検知することができませんでした。
その意味で、今回の研究は、「解析が困難」とされてきた過去のアポロデータに新たな光を当て、成果を出そうとする画期的な試みであるといえるでしょう。また、今年打ち上げ予定の月探査機グレイル、2013年度打ち上げとされるロシアのルナグローブ(ペネトレーターを搭載し、その中に地震計を積む予定です)など、これから続く月・惑星内部構造探査への流れを大きく加速させるものといえるでしょう。
・NASAのプレスリリース(英語)
  http://www.nasa.gov/home/hqnews/2011/jan/HQ_11-004_Moon_Core.html
・ルナーA (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/history/lunar_a.html
・グレイル (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/topics/GRAIL/