NASAは10日、月探査を実施する民間企業から、月の水や石などの月資源を購入する方針であると発表しました。NASAのブライデンスタイン長官が直接メッセージを発しています。

月の両極で発見された水の分布

チャンドラヤーン1に搭載された月面鉱物マッピング装置(M3)のデータを解析して判明した、月の両極における水の分布状況。水色の部分に水(氷)が存在すると考えられる。左は南極、右は北極。灰色が濃いところほど温度が低い場所を示す。
(出典: Ice Confirmed at the Moon’s Poles (NASA), Photo: NASA)

NASAは現在、有人月探査計画「アルテミス計画」を進めています。この計画では2024年に男女の宇宙飛行士を月面に到達させる予定です。そしてその後は、おそらくは定期的に月面に人間を送り込み、有人拠点も構築することになるでしょう。
人類が月面で活動するとなれば、当然必要になるのが水です。そして、月に水が存在する可能性については多くの探査で指摘されてきました(ただ、注意すべきなのは、「確実に存在する」とわかっているわけではないということです。可能性は高いですが100パーセントではありません)。
NASAは将来的な月面有人活動に、この月に存在する(とされる)水を利用する方針を固めています。

9月10日にNASAが発出した要請書(下記のリンク参照)によりますと、NASAは契約者(月面探査を実施する民間企業)から、月の石、及びレゴリス(月の表面を覆う非常に細かい砂)を購入する契約を結ぶとのことです。
NASAのブライデンスタイン長官によると、この要請書は月資源を利用するための「重要な一歩」であり、また、宇宙条約の第2条にある「天体はいかなる手段によっても国家の取得の対象にならない」という方針に沿ったものであるということです。ここは、5月に発表した「アルテミス協定」において、月(を含めた宇宙)資源の利用は宇宙条約に完全に沿った形で行うとしたことに従ったものと考えてよいでしょう。

アルテミス計画は、NASAが行うとはいえ、民間企業の力をフルに活用することを考えています。一方、いくつかの民間企業は既に月への探査ミッションを計画しています。さらに、トランプ大統領は今年4月6日付で、月を含めた宇宙資源の利活用を促進する大統領令に署名しており、アメリカとしては民間企業が月(を含めた宇宙)資源の探索・採掘を積極的に行い、それらを活用することを促進したいと考えています。
政府としては法律(例えば、2015年アメリカ宇宙法。宇宙資源について、それを採掘した民間企業に所有権を認めている)による後押しを行い、民間企業がそれに沿って探索・採掘を進めていく、という方針を取りたいようです。

上記の要請書について長官は、月探査を行う民間企業が月の「砂」や石を「少量」採取し、その収集した場所などについての情報を記録した上で、「その場で」NASAに所有権を移転する形を取ると説明しています。つまり、月資源については地球への持ち帰り、あるいは少なくとも有人月面拠点などへの移送の責任を民間企業が負うのではなく、発見場所やその資源の詳細をNASAに報告すれば、あとはNASAがそれをその場にある形のまま買い上げるということになります。

また、NASAではこれらの民間企業についてはアメリカ企業に限定しないとしています。
実際、アメリカ以外でも月資源に注目している企業はあります。例えば日本のアイスペースがそうです。月の水資源開発による月面開発を目指す同社は、2022年に月面への初の着陸機を送り込むことを目指していますが、それ以降、月の水資源探索のための探査機を送り込むことを狙っています。今回のNASAの提案は、こういった企業にも大きなビジネスチャンスをもたらすことでしょう。
なおNASAでは、買い上げる対象はレゴリスのみとし(石をなぜ含めないのかはわかりませんが)、買収資金のうち、10パーセントは認定時、次の10パーセントは(おそらく資源回収ミッションの)打ち上げ時、そして残り80パーセントはNASAへの権利移転の完了時に支払うと述べています。またレゴリスの利活用方法については今後決定するとのことです。

NASA、といいますかアメリカの将来宇宙探査の究極の目標は有人火星探査です。そこでは月と同様に、現地にある資源を利用する「その場資源利用」(in-situ resource utilization)が重要視されます。NASAでは、月(アルテミス計画)での資源利用はその前段階と捉えており、月における資源利用の経験を将来の有人火星探査に活かすことを考えているようです。

今回のNASAの月資源についての声明は、これまでも述べられてきた月の水資源利用についてNASAがアルテミス計画と絡めてさらに一歩踏み出したものと考えてよいでしょう。
実際にNASAが月面で「取得」した資源は一体法的に誰のものとなるのか、さらにいえばそれは国家の所有とならないのかどうかなど、法的には微妙な点は依然残ります(「所有権移転」といういい方も、宇宙条約に触れないように巧みに編み出されたものかも知れません)。ですが、月資源の利用、とりわけ水資源の利用は、長期的な有人月探査では避けて通れないものかと思います。
もちろん、それは月に水があれば、の話であって、まだこれには結論が出ていません。今後のミッションで月の水資源について、その有無や量を科学的に推測し、さらにその利用プランを考えていくというプロセスを取っていくことになるでしょう。今後のNASAや月を目指す民間企業の動きを、注意深く見守っていきましょう。

  • ブライデンスタイン長官の声明