ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)が観測した写真の中に、月面の天然の橋を写したものがみつかりました。
通常、天然の橋というと、地球上にみつかるものは浸食などでできたものが多いのですが、月ではそのようなことは考えられません。ただ、月面で風や水などで浸食されるということはありません。では、この橋はどのようにしてできたのでしょうか?
いまのところいちばん妥当と考えられるシナリオは、溶岩チューブが2回にわたって崩れたというものです。
溶岩チューブの存在は、これまでにアポロが撮影した写真、さらには「かぐや」による写真でも知られてきました。LROでもいくつか写していますが、今回は月の海ではなく、キングクレーターというクレータの内部で溶けた溶岩による溶岩チューブで発見されたというのが特徴です。
【写真 月面ではじめて発見された天然の橋。左側の穴は深さ12メートル、右側の穴は深さ6メートル。橋は幅が約7メートル、深さは9メートルほど。長さは20メートルくらいとみられる。(c) NASA/GSFC/ASU】
しかも、この「穴」を写した狭角カメラの画像には、橋が2つも写っています。
では、これが「橋」だとなぜわかるか、といいますと、写真の左側の穴にその答えがあります。この穴の左側、三日月上に明かりがみえている(穴の底に光が入っている)のです。一方、上の写真の場所を低解像度で撮影した別の写真(写真右上のはめ込み写真参照)をみてみますと、光が橋の西側から差し込んでいるのがわかります。つまり、この下には空洞があるというわけです。
では、このような橋はどうやってできたんでしょうか。
キングクレーターの溶岩はさしわたしが15キロメートルほど。このような溶岩の海は、衝突してから数分という単位でできあがったと考えられます。クレーターができた際には、溶岩は厚く堆積し、その中に溶岩が流れる余地を残していたと思われます。衝突から少し時間が経つと、今度は衝突の反動で少し地面が盛り上がります。そのため、溶岩流はそのような地殻の動きに押されて動いたものと思われます。
このようなことが起きたとみられる1つの証拠として、この橋の南側にある部分が、まるで水ぶくれのようになっていることが挙げられます。おそらく、このふくらみを作った溶岩が「逃げ道」を見つけ出し、それがちょうど空洞を作るようになって、穴を形作ったのではないかとみられています。しかし、いまのところ、この橋がどのようにしてできたのか、詳しいことはわかっていません。
このキングクレーターの北側にある溶岩領域は、LROの観測でも優先地域に充てられており、今後の探査が待たれる地域でもあります。
【この「橋」が存在するキングクレーター北西部の溶岩地域。直径は大体17キロ。キングクレーターの直径は72キロ。(c) NASA/GSFC/ASU】
【この「橋」を太陽高度が違う時間帯に撮影した写真の比較。右側は太陽高度が80度(ほぼ真上から照りつけている状態。月面の昼間に当たる)、右が42度の状態。右側の写真ではほぼ真上から太陽が照りつけているので、穴の底まで光が差し込んでいて、橋はあまり目立たない。左側のようにある程度角度を持って太陽光が差し込んでいる方が、橋が目立って写る。(c) NASA/GSFC/ASU】
・アリゾナ州立大学の記事 (英語)
http://lroc.sese.asu.edu/news/?archives/277-Natural-Bridge-on-the-Moon!.html
・月溶岩チューブの天窓 (宇宙科学の最前線)(JAXA宇宙科学研究所)
※「かぐや」搭載の地形カメラ画像による溶岩チューブの発見について、地形カメラの主担当者、春山純一・JAXA助教が解説しています。
http://www.isas.jaxa.jp/j/forefront/2010/haruyama/index.shtml
・ルナー・リコネサンス・オービター/エルクロス (月探査情報ステーション)
https://moonstation.jp/ja/history/LRO/