NASAは、月周回探査衛星「ルナー・リコネサンス・オービター」(LRO)について、所定の観測期間(1年)を無事終了し、そのデータが無事公開されたことから、探査について「フルサクセス」(初期の目標達成)を宣言しました。
このほど、1年間の基本探査期間に撮影された最後のデータが、NASAが管理・運営する月・惑星データシステム(PDS: Planetary Data System)へと登録、公開されました。これにより、1年間の探査で取得したすべてのデータがすべての人に公開されたことになり、探査の大きな一里塚を越えたことになります。
LROの7つの測定機器がこの基本観測期間に取得したデータは、合計で192テラバイト以上という膨大な量に達し、DVDディスク4万1000枚以上にも達します。
LROの基本的な目的は、安全で効率的な月探査を達成することでした。「科学コミュニティが提供しなければならない最高のものを、私たちは生み出す必要があった。そしてそれを達成することで、私たちの月に関する科学的な知見を根本から変革したのである。」(NASA探査システムミッション部門のマイケル・ワーゴ氏)
LRO搭載のレーザー高度計(LOLA)の合計40億点にもわたる観測によって、月面についてもっとも正確かつ完璧な地図が作成されました。現在でも観測は進行中です。LOLAはこれまでの探査機すべての合計に比べて100倍以上もの観測を実施し、将来の科学、そして探査についての新しい可能性の扉を開きました。
LROのメインの測定機器ともいえるカメラは、基本観測期間中に月面の570万平方キロメートルの領域を撮影しました。これは月の表面積(約3800万平方キロメートル)の7分の1にあたり、アメリカ合衆国でいえば、ミシシッピ川以西のすべての州の面積の合計に匹敵する量です。
もちろん、「かぐや」をはじめ、これまでにも月面を撮影した探査機はありますが、LROカメラの持ち味は、それらの探査機に比べて非常に高解像度のデータを取得していることにあります。その解像度は1ピクセルあたり50センチメートルに達し、これまでみたことがない月面の詳細な地形や構造を次々に明らかにしています。
その解像度のすごさについて、LROの探査科学者であるNASAゴダード宇宙センターのリチャード・ボンドラック氏は、「LROのカメラをもってすれば、月面においてあるピクニックテーブルも楽々見分けられる。」と述べています。
月の北極地域にあるエルミートクレーター(Hermite crater)を探査している際、LRO搭載の月放射測定実験という装置は、太陽系で最も低い温度の場所を発見しました。その温度はなんとマイナス248度というもので、もう少しで水素さえ液体になってしまうくらいの温度でした。
このような領域には、水をはじめとする揮発性物質が蓄えられている可能性があります。そのため、今後はLRO搭載のライマン−アルファ線マッピング装置が活躍します。この装置は、太陽光が当たらなくて暗い場所についても「みる」ことができます。さらに、レーザー高度計との組み合わせによって、太陽光がどのくらい当たるのかを調べることができます。この観測により、いわゆるクレーター内の「永久影」と呼ばれる場所がどのような性質を持っているのか、また逆に、太陽光がずっと当たり続ける「永遠の昼」領域がどこにあるのかを調べることにも役立ちます。
月面には太陽光が年間243日にわたって当たり続け、真っ暗(太陽がまったくみえない)な時間帯が24時間以下という場所があるということで、これは将来の月面基地の構築(太陽光をエネルギー源にする)にとって極めて重要です。
さらに、月面基地に必要となる水については、月探査中性子測定装置(LEND)と小型合成開口レーダ実証実験も役立つデータを提供することになります。LENDは水素を検出することができますが、この水素は将来月面における燃料源としても使うことができるでしょう。
さらに、LROに搭載されている放射線影響測定用宇宙望遠鏡は、将来宇宙飛行士が月面、ないしは月周辺の宇宙空間で活動する際に備えて、放射線の強さなどを調べることで、宇宙飛行士が将来安全に活動するためのデータを提供します。
・NASAのプレスリリース(英語)
  http://www.nasa.gov/home/hqnews/2011/jun/HQ_11-192_LRO_Success.html
・ルナー・リコネサンス・オービター/エルクロス (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/history/LRO/