5月21日、日本では太平洋岸の地域を中心として、金環日食が見られました。金色の輪になった太陽をご覧になり、自然の神秘を感じた方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。また、その他の地域でも部分日食が見られました。部分日食とはいっても、太陽の80〜90パーセントくらいが欠けてしまい、見かけとしては三日月よりも細い太陽をみることができたかと思います。いずれにしても、日本の人口密集地域を金環日食帯が通るなどということはそうめったにないことで、出勤時、あるいは通学時間帯に、多くの方が空を見上げていたようです。
さて、日食は月が太陽を隠す現象です。では、その月から日食を…というか、日食のときの地球をみたらどうなるでしょうか。なんとこのタイミングで、アメリカの月探査機ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)が、そのカメラを地球に向けていました。

アリューシャン列島を通過する金環日食の影

アリューシャン列島を通過する金環日食の影 (Photo: NASA)

 

日本を通過する金環日食の影

日本を通過する金環日食の影 (Photo: NASA)

実際、月を撮影するために開発されたカメラで地球を撮影する、ということはそう簡単なことではなく、事前に入念に計画をしておくことが必要です。NACは通常のカメラとは異なり、いわゆるスキャナーの原理で撮像するカメラです。1本の撮像素子(CCD)が動くような形で、一気に5064ピクセルの画像を取得します。探査機は月の周りを周回しているので、探査機がスキャナーの役割を果たして、画像がずっと撮れていく、という仕掛けです。これは、「かぐや」の地形カメラなども同じ原理です。
ということは、月を撮るための探査機で地球を撮影しようとするとどういうことになるでしょうか。
まず、探査機の姿勢を変えなければなりません。地球の方を向くという作業が必要になります。これはそう簡単な作業ではありませんし、場合によっては探査機自体の異常を引き起こす可能性のある難しい作業でもあります。
さらに、探査機自体がスキャナーの役割を果たすわけですから、写真を撮る際に探査機自体をできるだけ素早く動かすという、これまた困難な作業が必要になります。今回は、1秒あたり0.1度というスピードで探査機を動かしました。
下のアニメーションは、撮影した4枚の写真を合成したものです。2枚目のフレームでは右端が切れてしまっていますが、これは、このように入念に計画したにもかかわらず、スキャンが間に合わず、画像をすべて撮りきれなかったために生じたものです。

4枚の画像の合成

4枚の画像の合成 (Photo: NASA)

金環日食帯をズームしていった写真を下に示します。金環日食ですので、皆既日食とは違い、直下部分でも真っ暗とはなりません。

金環日食帯のズーム

金環日食帯のズーム (Photo: NASA)