昨年9月に打ち上げられた月探査機「ラディー」ですが、間もなく探査を終了することになります。探査を終了した探査機は、あらかじめ定められた手順に従い、これまたあらかじめ定められた場所へと落下(制御落下)することになります。その瞬間を目撃しよう、という企画「ラディー・インパクト・チャレンジ」が、NASAで実施されています。
時間を当てる企画の締切は、アメリカ時間では11日の午後3時(アメリカ太平洋標準時。日本時間では12日午前7時(夏時間考慮)となります。

現在ラディーは月の周りを当初より高度を落として周回しています(当初も高さ50キロという、周回衛星としては非常に低い高度でした。ちなみに「かぐや」は高度100キロ、中国の月探査機嫦娥1号は高度200キロでした)。月の引力は場所によって不規則なので、高度が低くなるほど探査機は場所によって強く引っ張られることになり、軌道が不安定になります。そうして、軌道を保つための燃料が尽きてしまうと、そのまま月に引っ張られて、最終的に月面に衝突することになります。実際には科学的な理由や確実な観測などのために、あらかじめ定められた地点へ落下させる「制御落下」が行われます。

4月11日、ラディーを運用するNASAエームズ研究センターでは、軌道維持のための最後のコマンドをラディーに向けて送信します。このあと、ラディーは徐々に高度を落とし、4月21日までに月面に衝突すると考えられています。
ちなみに、4月15日は月食ですが、その前(機器が太陽の影に入り、通信できなくなる前)にコマンドを送っておこうという安全策をとっているわけでもあります。
実際、想定寿命に近づいているラディー探査機にとっては、この月食を生き延びられるかどうかはギリギリというところです。
また、落下する場所は月の裏側になるため、地球からこの落下を直接目撃することはできません。

ラディー探査機が月面にいつ落下するか。これを予想しようというのが、「ラディー・インパクト・チャレンジ」です。
記事最後にあるページ(英語ですが)にジャンプしますと、氏名と電子メールアドレス、落下予想の日時(日・時・分)を入力するようになります。最も落下時間に近い答えの人が「勝者」となるわけです。この大当たりの方には、ミッション終了後NASAより電子メールにて連絡があり、賞品などを贈呈されるそうです。

このミッションの最後の時期にいたっても、ラディーは黙々と観測を続け、月周辺についてのデータを集め続けています。
昨年9月に打ち上げられ、10月から探査を開始したラディーは、月探査機としていろいろな「初」を達成しました。月と地球との光通信(レーザー光通信)の実証実験を実施しました(電波に比べ6倍も高速でのデータ送受信を可能にしています)。ラディーはまた、通常であれば企業に委託されて組み立てられるところ、NASAエームズ研究センター内で研究者たちの手によって組み立てられるという、NASAとしては異例の探査機ともなっています。
打ち上げロケットは、民間企業であるオービタルサイエンシズ社のミノトールロケットでした。このロケットでの月・惑星探査機の打ち上げも「初」です。また、打ち上げ場所はアメリカ・バージニア州にあるワロップス飛行施設(ゴダード宇宙飛行センター管轄)でしたが、ここから月・惑星探査機が打ち上げられたのも「はじめて」です。
また、科学的な目的でいえば、月の周辺のごく薄い大気や電離層などを探るという目的での探査機も、月探査史上では「はじめて」でありました。

ラディーは、2メートル四方という小さな探査機ではありますが(それでも「はやぶさ」よりは本体は大きいのですが)、いろいろな「初」を達成したわけです。2013年10月6日に月に到着、11月20日から科学観測を開始しました。
科学観測の当初予定は100日間。約3ヶ月ですから、それを十分に達成して、間もなくミッションを終了することになります。

ラディーに搭載された3種類の科学機器は非常に順調に動作しています。これにより、月周辺のごく薄い大気や、月からまき上げられたダスト(ちり)などについての詳細かつ膨大なデータが得られています。得られたデータは70万点を超えています。
ラディーの当初の科学観測軌道は、月に最も近い点で高さ20〜50キロ、遠い点で75〜150キロというかなりユニークなものでした。この軌道では、月の昼と夜がめまぐるしく交代し(大体2時間ごと)、これにより、月の大気の昼と夜とでの違いをより詳細に観測することができるようになっています。

ラディーのプロジェクトマネージャーであるエームズ研究センターのバトラー・ハイン氏は、「仮に最終軌道変換が完璧だったとしても、わずかな可能性ではあるが、予定されている21日より前に月のどこかに落下してしまう可能性はある。燃料を使いきっての軌道変換のあとに、月の重力の影響を受けて軌道がどのように変化するのかを知ることができるのも探査としては重要な試みだ。」と語っています。

また、NASA本部の惑星科学担当部長であるジム・グリーン氏は、「この数ヶ月、ラディー探査をずっとウォッチして下さった皆様に感謝を申し上げたい。多様な文化圏において月というのは特別な地位を占めている。そしてラディーによって、その隣人をこれまでよりもっとよく知ることになったのである。」と、この探査を(やや早いですが)締めくくっています。