10月8日に月軌道に入り探査を開始した月探査機ラディー。「地味な探査機」と思われがちでしたが、さっそく大記録を打ち立てました。
NASAは22日(現地時間)、地球とラディー探査機との間で、レーザー光を利用した通信で、毎秒622メガビットという超高速の通信(月→地球方向)を行うことに成功しました。
この毎秒622メガビットという数値ですが、通常の有線のLANでは毎秒100メガビット(最近ではその10倍の毎秒1ギガビットというところも徐々に出てきてはいます)、比較的高速な無線LANでも毎秒150〜300メガビット、現行最速のLTEなどの規格でもほぼ110メガビットくらいということで、その速度の速さが実感できるかと思います。しかもこれは電波ではなく、光(レーザー光)を利用しているという点が特徴です。

この実験は、ラディーで行われているLLCD(月レーザー光通信実証実験、LLCD: Lunar Laser Communication Demonstration)という実験として行われたものです。電波ではなく、光を使って、月と地球の間を通信させる試みはNASAとしてははじめてのものです。
また、今回は地球から月を周回する探査機に向けて、毎秒20メガビットでデータを送信することにも成功しました。このレーザー光は、ニューメキシコ州にある通信基地から発せられたものです。

これまで、宇宙空間での通信は電波がほとんどの場合使われてきました。しかし、電波は周波数の領域が限られていることなどの条件があり、より高速な通信を行える仕組みが求められてきました。今回のレーザー光での通信は、新たな高速通信手段を確立できるという可能性を実証したものです。今後こういった手段を利用して、例えば月面から高画質の映像の生中継や、より詳細な画像の送信などが行えることが期待されます。

LLCDは、NASAが進める長期的な実証実験である、レーザー光リレー通信(LCRD: Laser Communication Relay Demonstration)の前段階と位置づけられています。LCRDはNASAの技術実証プログラムの1つで、宇宙空間で利用できる最新テクノロジーの開発の1つです。2017年の実用化を目指しています。
LLCDのマネージャーであるNASAゴダード宇宙飛行センターのドン・コーンウェル氏は、「LLCDの目標は、この技術が将来の探査において利用を考えてもらえるよう、技術を確実なものとすることである。この技術はマサチューセッツ工科大学(MIT)のリンカーン研究所で開発されたが、その可能性は信じられないほど広いものがある。」と、LLCDの意義を強調しています。

ラディー探査機のミッションは、月周辺のダスト環境の解明や、月にごくわずかながら存在する大気の状況の解明を目指すものです。LLCDの地上システム及び探査機搭載システムはMITリンカーン研究所で開発されました。地上システムはニューメキシコ州ラスクルーセスにあるホワイトサンズ試験場に設置されています。
また、もう1つ別の地上局であるカリフォルニア州ライトフット近郊のテーブルマウンテン光学通信研究所は、NASAジェット推進研究所(JPL)が運営しています。さらに、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)もこの計画に参加しており、カナリア諸島テネリフェに地上局を持っています。

今回の実績について、NASA本部の宇宙通信・誘導担当副長官であるバドリ・ヨーンズ氏は、「LLCDは、私たちが考える次世代の宇宙通信の第一歩である。今回の結果は非常に満足すべきものであり、私たちは正しい方向を進んでいると考える。今後、この技術を早期に実用化に移せるものと期待している。」と語っています。