この9月に打ち上がれる月探査機「ラディー」(LADEE)と、地球上とで、レーザー光を使った通信実験が計画されています。実現すれば、レーザーで月と地球で交信できることが確認され、これからの探査に役立つだけではなく、将来的に月に基地ができた際の通信手段としても期待されます。

地上から電波を送るのは、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の通信所です。スペインのカナリア諸島テネリフェにある光学地上観測所(Optical Ground Station)から、月上空を飛行しているラディー探査機に向けてレーザー光が送られます。
ラディーには、レーザー光を受信、及び送信するための装置が搭載されており、この装置を使って地上とのレーザー光通信をやり取りするようになっています。この送受信実験は、ほかにアメリカの2つの地上局との間でも行われます。
今回の実験に際して、テネリフェの通信所では装置をアップグレード、赤外線レーザー光での通信が行えるようにしました。ちょうど地上の光ファイバーでの通信と同じような光で、月と地球とで情報をやり取りする準備が整ったことになります。

「テストは順調に進み、数多くの問題も見つかってはいるが、9月に予定されているラディーの打ち上げには間に合うだろう。地上局はアメリカの2つの通信局と共にラディーとの光通信の実験に加わり、将来の火星探査、あるいはほかの太陽系内の探査において、このレーザー光通信がどのくらい有効であるかを確かめる予定である。」(ESAで今回の実験を担当するゾラン・ソドニック氏)

このテストは、7月にスイス・チューリッヒにおいて、 ESAの協力企業の施設で実施されました。マサチューセッツ工科大学(MIT)、リンカーン研究所、そしてジェット推進研究所(JPL)を含めたNASAの支援チームも到着、NASA側の送受信機とESA側の機器とで正常に情報のやり取りができるかどうかを確認しました。
このような2つの機関との間でのレーザー光送受信実験ははじめてのことであり、受信、送信、そして電波強度の測定を行うことができました。

ラディーへのレーザー送信実験は、打ち上げから4週間後、10月半ばには実施される予定です。
近赤外領域のレーザー光を使った宇宙通信は、膨れ上がる一方の宇宙空間の通信量や、電波による雑音の問題などを解決するための一環として非常に期待されており、将来的には火星やより遠くの天体、あるいは探査機との通信にも使われる可能性があります。
また、このレーザー光送受信装置は、現在探査機に一般的に使用されている電波の送受信装置よりもはるかに小型にできることから、探査機の重量の削減や低予算化にも貢献できるでしょう。

衛星と衛星とのレーザー光通信としては、ヨーロッパ(ドイツ宇宙機関: DLR)はすでにアルファサットという衛星に機器を搭載しており、今後実験を行う予定です。
また忘れてはならないこととして、日本の光通信実験衛星「きらり」(OICETS)は、静止衛星軌道上にあったヨーロッパの静止衛星「アルテミス」(ARTEMIS)と、世界ではじめての衛星間光通信を行うことに成功しています。また、地上と低高度衛星との通信にも成功しており、宇宙でのレーザー光通信の先鞭をつけました。