ちょうど中秋の名月を迎えるにふさわしいニュースが入ってきました。
9年前のちょうど今の時期、2007年9月14日に打ち上げられた日本の月探査機「かぐや」を覚えていらっしゃるでしょうか? 知名度ではその後地球に帰還した「はやぶさ」に負けてしまっているかも知れませんが、14種類の科学機器が取得した膨大なデータは9年を経た現在でも国内外の研究者によって解析が進められており、月科学において大きな成果を挙げた探査機です。

この「かぐや」は、一般広報用に、NHKが開発したハイビジョンカメラが搭載されていました。今回宇宙研の人工衛星データ公開サイト「DARTS」(ダーツ)において、「かぐや」が撮影したすべてのハイビジョン映像が公開されるとのニュースがありました。

「かぐや」月周回軌道投入想像図

月周回軌道に投入される「かぐや」の想像図 (© JAXA)

「かぐや」によって撮影されたハイビジョン動画は、これまで一部がJAXAのYouTube(ユーチューブ)チャンネルで公開されたり、NHKの番組などで公開されたりしていました。また、静止画として切り出した画像は、JAXAデジタルアーカイブスで閲覧することも可能です。皆さんも、印象的な「満地球の出」「満地球の入り」などの映像はご覧になった方も多いのではないでしょうか。

しかし、これまでに公開されたのは、ハイビジョンカメラによって捉えられた653本の映像の一部にしか過ぎず、またナレーションなどが入ってしまっているため、そのままでは教育用などの素材として利用することができませんでした。
今回JAXAは、教育用の素材などとして利用してもらうことを目的として公開することを決定したと、NHKは報じています。

今回、月のハイビジョン画像が公開されるサイトは、JAXA宇宙科学研究所(宇宙研)が持つ衛星データ公開システム「DARTS」(ダーツ)です。宇宙研がこれまで打ち上げてきた科学衛星のデータを蓄積しているサイトで、「かぐや」の他のデータについてもすでに公開が行われています。

なお、公開に際しては、月の地図をクリック/タップすることで、その地点を撮影した映像を閲覧・ダウンロードできるシステムとなるとNHKは報じています。これは公開されてからわかるでしょう。なお、どのようなデータフォーマットで公開されるのかなど、詳しいことはわかっていません。
データ公開は9月21日から開始されるとのことです。現在該当のサイト(下のリンク参照)は公開まで待つような形の指示が出ています。

NHKによると、「かぐや」のデータを分析している大嶽久志グループ長(実は編集長=寺薗の同じ研究室の後輩です)は、

クレーターや、地球から見てうさぎの姿に見える部分、それに溶岩流の跡などいろいろな映像があります。あたかも月面の上空を自分が飛んでいような感覚で見ることができる迫力のある映像で、日本のオリジナルの成果でもあるので、教育現場などでの活用を期待しています。20年後、30年後には今の子どもたちの世代が、月面での有人活動の主役となる可能性もあるので、将来を想像しながら映像を見てほしい

と述べています。
ただ、どのようなフォーマットで公開されるのかなどがわからないと、データ量がおそらく膨大になるため、教育現場ですぐに活用できるかどうかは不明です。データ公開を機に、これらのデータを使った教育素材、あるいは教育用ツールが登場することが待たれます(私が作ってもいいのですが)。

なお、この「かぐや」のハイビジョンカメラのデータは、ミッション遂行時に公開するかどうかで一時問題になったこともあり、その後も公開は一部にとどまっていたという経緯があります。これはNHK側とJAXA側での著作権処理などの問題があったのではないかと推測されますし、9年も経過してしまったというのはいささか遅きに失した観もあるかと思います。また、海外向け(英語で)の公開がしっかり行われるのかという点もまだわかりません。
ただいずれにしても、私たちがこの月面からの…地球近傍以外の宇宙空間で唯一撮影されたハイビジョン映像を自由に扱えるようになるのは楽しみでもあります。教育素材や、これを活用したさまざまな応用(アプリケーション)がたくさん出てくれることを、「かぐや」チームの一員である私としても願いたいところです。