日本が、アメリカ(NASA)が計画している月上空の宇宙ステーション「深宇宙ゲートウェイ」(ディープ・スペース・ゲートウェイ=Deep Space Gateway)に参加する方針を固めたという記事が読売新聞より出ています。

NASAの「深宇宙ゲートウェイ」構想

NASAが計画する「深宇宙ゲートウェイ」(ディープ・スペース・ゲートウェイ)構想のイメージ。左側の宇宙ステーション(深宇宙ゲートウェイ)に、右側のオライオン(オリオン)宇宙船がドッキングしようとしている。© NASA 出典、https://www.nasa.gov/feature/deep-space-gateway-to-open-opportunities-for-distant-destinations

深宇宙ゲートウェイは、今年(2017年)になってNASAが打ち出してきた、月上空に設置される宇宙ステーションです。いってみれば、いまの国際宇宙ステーション(ISS)が月上空に浮かんでいるようなイメージを想像してください。
月上空の基地からは、火星や月のいろいろな場所、もちろん地球への飛行も可能です。月上空を周回するということもあり、月のいろいろな場所へのアクセスもしやすいでしょう。また、上空にあるということで、ISSの技術を受け継いで開発していくことも比較的やりやすいのではないかと思われます。

この構想が出てきた背景には、ISSの将来の問題があります。
国際合意により、ISSを運用する15カ国は、2024年までISSを維持するための予算を拠出することに合意しています。逆にいいますと、それ以降のISSの維持に関しては決まっていません。そして、どちらかというと国際的な流れとしては、ISSの次の国際的な大規模宇宙プロジェクトに進む方向性にあるといえます。ISS後の大規模有人宇宙開発プロジェクト、通称「ポストISS」が、いま大きな議論になってきています。
現在、そのターゲットとして注目されているのが「月」です。

近年、月探査、それも有人月探査に関するニュースが増えてきました。アメリカのトランプ政権はどうも有人月探査を目指す方向性にあるみたいです。以前のオバマ政権は小惑星有人探査(小惑星イニシアチブ)をメインに据えていましたが、これをキャンセルし、月を拠点として将来の火星有人探査を目指すようです。今年9月に指名されたNASA新長官のブライデンスタイン氏は月基地推進派で、この見方を後押ししています。
また、この深宇宙ゲートウェイにロシアも参加するという情報が出てきました。これはISSの枠組みを保ったままこの深宇宙ゲートウェイを進めるという上で非常に大きなサポートになると考えられます。

そのような中で今回の「日本も協力」という話が出てきました。
読売新聞によると、今回の検討の目的は、日本がこの深宇宙ゲートウェイに参加し、日本人宇宙飛行士を月面の探査任務に就かせることと解説しています。この理由として、科学的な成果だけではなく、宇宙開発分野における競争力の強化、宇宙利用分野での優位性の確保などが記事では述べられています。
これらがこの深宇宙ゲートウェイを利用した有人月探査で実現できるかについては今後詳細な検討が必要ですが、記事によると政府ではこういった検討を専門家委員会で行い、報告書案をまとめる、ということです。
なお、この「政府」がどこなのか…内閣府なのか、文部科学省なのか、はたまたJAXAなのかについては説明されていません。おそらくは宇宙政策全体を統括する内閣府か、科学探査分野を主導する文部科学省ではないかと思われますが、このあたりがはっきりしないというのも不自然な感じがします。

もう1つ、この時期に日本の有人月探査の話が出てくるのは、来年3月に日本で開催される国際会議「第2回国際宇宙探査フォーラム」(ISEF2)があるのではないかと思います。
ISEF2は、将来の有人宇宙探査の枠組みを決めるために開催される会議で、関係閣僚などが参加する非常に大きな会議になりそうです。日本としては議長国として、各国をリードするような案をまとめていきたいと考えていると思われます。そのため、アメリカの深宇宙ゲートウェイをベースとし、有人月探査→有人火星探査の流れを打ち出すことを会議の成果としたい、と考えているのではないでしょうか。
これはあくまでも編集長(寺薗)の推論ですが、ここのところ流れてくる各種の情報をみる限り、このISEF2に向けた動きのように思えてきます。

折しもこの1~3月は、グーグル・ルナーXプライズ(ハクトなどが参加する月面到達競争)や、インドのチャンドラヤーン2の打ち上げなどが予定されており、月探査についての関心が高まると思います。そのタイミングでの今回の記事、またISEF2の開催となれば、これからどのようなことが決まっていくのかについて十分注目していく必要があるでしょう。

※おことわり…読売新聞の記事では「深宇宙探査ゲートウェイ」と表記されていましたが、本来のDeep Space Gatewayの訳は「深宇宙ゲートウェイ」であり、本記事でもそれを使用しています。なお、月探査情報ステーションでは、英語をそのまま記述した「ディープ・スペース・ゲートウェイ」という表記をこれまで使用していましたので、こちらも併記しています。いずれ統一が必要を行っていきますが、しばらくはこの併記の形でまいります。