9月21日付の産経新聞が、超党派の国会議員による宇宙資源に関する立法を進めており、早ければ次の通常国会に法案を提出すると報じています。

DSIの「ハーベスター」

ディープ・スペース・インダストリーズ社がかつて構想していた小惑星採掘宇宙機「ハーベスター」。小惑星採掘の第3段階で投入され、本格的な採掘に用いられることになっていた。
( © Deep Space Industries)

この法案をまとめたのは、自民党や立憲民主党などの国会議員からなる超党派の議員連盟「宇宙基本法フォローアップ議員協議会」です。自民党の河村建夫衆議院議員と立憲民主党の前原誠司衆議院議員が共同議長を務めています。
ちなみに、河村議員は自民党「宇宙族」のトップであり、長年にわたって宇宙開発、宇宙政策に提言を続けてきたほか、実際に宇宙政策にも大きな影響を与えています。例えば、情報収集衛星の実現に尽力したのは河村議員ともいわれています。
また、前原誠司議員は、民主党政権時代には宇宙担当大臣を務めた経験もあります。

産経新聞の記事によると、法律案は「宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律案」となっています。月や小惑星など、宇宙空間における資源の利用について定めたものとなっており、資源探索・採掘を行うための宇宙機の打ち上げに際し特例を設けるとされています。また、宇宙資源を採掘した事業者がその使用(おそらくは売却なども含まれます)により利益を上げること、ないしその利用を許可するという内容になっています。
なお、22日現在、編集長はこの原案を入手していないため、詳細については記事以上の情報はありません。

法案については国際的な協調も念頭に入れ、一方では日本の宇宙産業強化を目指すものとなっているとのことです。ただ、宇宙資源採掘は現時点で国際的に完全な合意が取れているものではないこともあり、法案には「宇宙空間の探査や利用の自由を行使する他国の利益を不当に害しない」との留意事項が設けられているとのことです。

宇宙資源探索・採掘を巡る動きは、近年ますます加速しています。その背景にあるのが、アメリカの有人月探査計画「アルテミス計画」です。
アルテミス計画は、2024年までに月に再び人を送り込むのみならず、その後も継続的に月に人を送り込み、恒久的な月面基地を構築することを目指しています。当然、長期間にわたって人間が滞在するために必要な物資を「何とかしなければ」ならないわけです。特に人間が生きていく上で欠かせない水をどうするかが大きな問題です。
近年、特に月の極地域(南極と北極)に水が存在する可能性が探査により指摘され、この水を有人基地で利用できるのではないかという期待が盛り上がっています。水はまた、酸素と水素に分解してロケット燃料にも使えますので、月面移動用や将来の火星探査機用などに使うこともできるでしょう。
日本もアルテミス計画への参加を表明しており、アイスペースのように月の水資源探索・採掘を狙うスタートアップ企業も出てきています。日本としても宇宙資源についての法整備を行い、こういった動きにすばやく追随していこうということではないでしょうか。

なお、宇宙資源の利用について国内法を定めているのは、アメリカとルクセンブルクです。日本がこの法律を制定すれば3カ国目となります。なお、記事によれば、カナダやオーストラリア、ニュージーランドでも検討が進められているとのことです。編集長(寺薗)はオーストラリアで検討されているという情報は耳にしたことはありますが、ほか2カ国については情報を聞いたことがありません。

宇宙資源は人類の宇宙進出を大きく進める要素になりうる一方で、先に進出した国が全て使ってよいのかという法的・倫理的な問題、科学的に価値がある場所や物体を損ねてしまい、宇宙の科学的な価値を毀損するおそれもあります。また、宇宙開発における「憲法」といってもよい宇宙条約でも実は宇宙資源採掘(といいますか、宇宙の民間利用)については定義が曖昧で、この点で現在は各国が独自に法律を定めることになってしまっているのです。
宇宙資源の利用を促進し、ひいては宇宙開発を促進する意味からも、一日も早い国際的な枠組みの成立と、日本として世界の役に立つような(もう少しいえば、世界の模範となるような)宇宙資源利用を進めていくことを願います。