ロシアはここのところ、月探査の復活に関してかなり力を入れているようです。このほどスプートニク・ニュース(日本語版)が明らかにしたロシアの新型宇宙船に関しては、実は人間(ロシア人?)を月に送り込める仕様になっている模様です。

この記事の中では、この新型の有人宇宙船について、当初の予定では2021年までに打ち上げる予定だったのを、前倒しして2019年の初飛行を実施することになっています。なお、打ち上げはロシアが開発中の新型ロケット「アンガラA5V」を使用し、打ち上げ場所もこれまた現在ロシアが建設中のボストーチヌイ宇宙基地になるとしています。
つまり、新型のロケットを使った新型の宇宙船を、新しい宇宙基地から、あと4年後には打ち上げる、ということになるわけです。

この記事から、その「新しい有人宇宙船」について少し読み取ってみましょう。

  • 宇宙船は複数使用型。つまり、再使用が可能な形で設計される。
  • 乗員は4名。ちなみに、現在ロシアが使用している有人宇宙船「ソユーズ」は3人乗り。
  • 宇宙船の広さは18立方メートル。ソユーズは7立方メートルで、おそらく居住性は大幅に改善される。
  • 30日間にわたって自動操縦を行える仕様となっている(編集長注: 実際に30日間飛行するようなミッションがあるかどうかは不明ですが、場合によっては月−地球軌道上でのミッションも想定しているかも知れません)。
  • 全長6.1メートル、宇宙ステーションへの飛行の際の総重量は14.4トン。月飛行の際の総重量は19トン。

さて、この仕様をみたときに、いまアメリカ・NASAが開発中の新型有人宇宙船「オライオン」の仕様と似ているのではないか、という予感がしました。そこで、オライオン宇宙船と比べてみることにしましょう。

  • オライオン宇宙船は乗員4名。ロシアの新型有人宇宙船も乗員4名。
  • オライオン宇宙船の与圧部体積は19.55立方メートル。ロシアの新型宇宙船の広さ(この広さをどの部分について述べているのかは不明ですが)は18立方メートル。
  • オライオン宇宙船の総重量は21.2トン。ロシアの新型有人宇宙船の総重量は、月への飛行の場合には19トン。
  • オライオン宇宙船は直径が5メートル。ロシアの新型有人宇宙船の全長は6.1メートル。
  • オライオン宇宙船は使い捨て(1回限りの使用)。一方、ロシアの新型宇宙船は10回程度の再使用を想定している。
  • オライオン宇宙船は2018年に無人での初飛行、2021年に有人初飛行を予定。ロシアの新型宇宙船は2019年に初飛行を予定(無人化有人かは不明)

以上みていきますと、ロシアの新型有人宇宙船はオライオン宇宙船とかなり似通った仕様を持っているものの、もっとも大きな違いとして、再使用の有無が挙げられます。
スペースシャトルが引退した1つの理由として、再使用型宇宙船が当初予定していたよりも多額のコストが必要になってしまっているという問題がありましたが、ロシアがなぜ今の時期に(つまり、このスペースシャトルの教訓が十分に得られている時期に)、再使用型カプセル宇宙船を開発しようとしているのか、その意図は不明です。

ロシアが月探査を「再起動」し、無人探査を復活させた上で、2030年代に有人月面基地を構築する計画があるということは確かです。おそらくこの新型有人宇宙船は、その有人月面基地に人間を輸送するための能力を備えているものと思われ、国際宇宙ステーションから月まで、幅広い領域での人員輸送を担うことになるでしょう。ただ、アメリカのオライオン宇宙船は、さらにその先、火星への有人飛行も想定して設計されていますので、この部分が微妙だが大きな違いになる可能性はあります。

ただ、ロシアの月探査計画が順当に進むのかどうかという点については、私(編集長)はかなり懐疑的です。そもそも、打ち上げ場所となるボストーチヌイ宇宙基地も建設が遅れており、大学生を動員する「学徒動員」によって建設が急ピッチで進められている状態です。さらに、ロシアの現在の経済状況や、一向に改善されない宇宙開発関連の人材枯渇や技術力低下の問題も、解決の兆しは全くみえていません。
このような中での新型有人宇宙船の開発は、プーチン大統領が唱える「偉大なるロシアの復活」という意味では効果がありそうですし、アメリカのオライオン宇宙船の「機先を制する」効果はあるかも知れませんが、ロシアの宇宙開発に無理な負担をかけ、全体を崩壊させてしまうことにならないか、私としては大変心配です。

私としては、ロシアは宇宙開発体制の再構築を実施しようとしていて、ロケット、宇宙船、さらには宇宙開発体制そのものまで大幅に変えようとしているというのは理解できるのですが(現行のシステムは1960年代にその起源がさかのぼれるもので、やはり技術的な古さは否めません)、この点は、古いシステムのつぎはぎで開発を進めているアメリカの有人宇宙システム(とりわけNASAのSLS)よりはいいものができる可能性があると思ってはいます。ただそれは、技術力と資金が十分に供給されることが前提で、その両者が少なくとも現時点で望み薄である中では、全てが共倒れになってしまわないかどうか、非常に心配です。
ともかくも、今後も「ロシアと月(探査)」のニュースは要注目といえるでしょう。