打ち上げから2ヶ月。世の中では「便りがないのはよい知らせ」とはいうものの、やはりそこはどうなっているか気になるのが「はやぶさ2」を見守る人たちの共通した心理でしょう。
その打ち上げ2ヶ月より少し前の1月28日、「はやぶさ2」の初期運用に関する記者会見がJAXA東京事務所で開催されました。出席者は、「はやぶさ2」プロジェクトマネージャーで、JAXA宇宙科学研究所の國中均教授と、「はやぶさ2」ミッションマネージャーで、同研究所の吉川真准教授です。

記者会見は、主に國中均プロジェクトマネージャー(PM)による資料の説明と解説で進みました。
「はやぶさ2」は、打ち上げから約2日間、探査機の各機器の軌道や初期状態の確認などを行う重要な期間「クリティカル期間」(この期間の運用をクリティカル運用といいます)を行いましたが、この運用は順調に終了しました。
現時点(1月28日)では、初期の運用を実施しているということです。初期運用は打ち上げ後3ヶ月をめどに実施されるとのことで、2月まではこの初期の運用が続くことになります。そして、3月をめどに、いよいよ小惑星への飛行を行う巡航運転の段階に入ってきます。

地球とのスイングバイは今年12月に予定されています。スイングバイ後、「はやぶさ2」は小惑星に向かう軌道(遷移軌道)に入り、2018年夏頃に小惑星1999 JU3に到着する予定になっています。

現在は、小惑星からのサンプル回収を念頭に、資料の受け入れなどの技術確立を行うため、4機関との連携を検討中です。この4機関とは、

の4つで、これらの機関との共同研究や協定についての調整を行っているとのことです。
また、2020年にサンプルが帰還してくるオーストラリアについては、オーストラリア政府との交渉も行っています。
その他、1999 JU3に接近する段階に備えて、観測の準備も進めており、ソフトウェアなどの作りこみも行っているとのことです。

「はやぶさ」でも「はやぶさ2」でも、目的の小惑星へ向かうために使われるのがイオンエンジンです。そしてそのどちらも、4機のイオンエンジンを搭載しています。
すでに「はやぶさ2」ではイオンエンジンの試験運転も行われ、軌道上で推力が得られたことを確認しています。この4つのイオンエンジンにはそれぞれA、B、C、Dという名前(?)がつけられており、このうちA、 C、 Dの3基での運転が行われる予定です。すでに試験運転の段階では、3基で28ミリニュートンの推力が得られ、「ほぼ満足すべき内容」(國中PM)とのことです。
なお、残るBエンジンはバックアップとして待機させることになります。
國中PMによると、2015年は2台イオンエンジンを運転できれば地球スイングバイは可能ということです。まだまだ長い旅路ですので、できるだけ能力を温存させながら使っていくことになるでしょう。

國中PMははやぶさにおけるイオンエンジンの責任者でもあり、もちろんイオンエンジンの研究者でもありますから、先代「はやぶさ」の経験を十分に活かしています。例えば、今回のイオンエンジンは先代のものよりも推力が向上しています。國中PMによると、試験段階で4台起動できて「やったな、という感じだった」とのことです。それだけ満足がいくエンジンに仕上がったということなのでしょう。

また、「はやぶさ2」の特徴的な2つのアンテナに象徴される、新たに導入されるKa帯での高速通信についても、試験に成功しました。具体的には、「はやぶさ2」からのKa帯電波を使った通信を、NASA深宇宙ネットワーク(DSN)の地球局の1つ、スペイン・マドリッド近郊の受信局で受信できたということです。実は、日本の探査機がKa帯での通信を行ったのははじめてということです。
Ka帯は、「はやぶさ」で使われ、「はやぶさ2」でもメインで使用されるX帯という周波数帯(8〜12ギガヘルツ)の4倍(32ギガヘルツ)という非常に高い周波数帯の電波になります。ちなみに、私たちが普段使っている電波は、800メガヘルツ(0.8ギガヘルツ)〜2.5ギガヘルツくらいですから、かなり高い周波数であることがわかると思います。

周波数が高くなれば高くなるほど、電波はどちらかというと光に近い性質をもつようになります。難しい言葉でいうと直進性が強くなります。周波数が高くなるため、一度に遅れる情報量が多くなるという利点はありますが、電波が直進してくるため、ちょっとしたアンテナのズレや途中の障害物などで受信が妨げられる可能性が出てくるなど、技術的にも難しくなってきます。日本にはKa帯を受信できる施設はないということで、Ka帯はもっぱら、DSNの支援を得て、小惑星に接近しているときに使われるようになるようです。
この点は國中PMも『臼田局は1980年代の「さきがけ」「すいせい」といったハレー彗星探査のときに作られた施設であり、すでに30年が経過している。ずっと使い続けるのは困難。JAXA内でも臼田局の後継を検討しているがまだ具体化していない。』と述べており、Ka帯運用ができる後継局に期待をみせています。

また、記者会見の本筋ではありませんでしたが、小惑星1999 JU3の命名についても記者から質問が出ました。これについては、國中PMは「各方面と相談中で、なるべく早く皆様にお伝えしたい」と述べていました。
さらに「はやぶさ2」のアウトリーチ活動については、吉川ミッションマネージャーは『先代「はやぶさ」での経験を受け、現在アウトリーチのチームに向けたチームを編成中で、これから活動していくことになるだろう』と述べ、國中PMも『(12月の)スイングバイに向け、いくつかの企画を想定している」と述べています。まだ年が始まって1ヶ月くらいですが、12月には金星探査機「あかつき」の金星周回軌道再投入もあるだけに、また宇宙で盛り上がる1ヶ月になりそうです。

いずれにしても、國中PMが「すべて順調」というように、「はやぶさ2」は現在のところ非常に順調に稼働しているようです。これからいろいろな段階を分での小惑星到達となりますが、先代のようなドラマチックな行程ではなく、行きも帰りも順調な行程になることを期待したいものです。