ヨーロッパ宇宙機関(ESA)はこのほど、2020〜2022年頃の打ち上げを想定した、将来の中規模月・惑星探査計画のうち、候補4つを選定しました。これはESAが掲げる「コズミック・ビジョン」というESAの科学探査長期プラン(2015〜2025年をカバーする探査ビジョン)の中で実施する計画です。合計47の候補の中から、このほど4つに絞られました。
選ばれた4つの探査計画は、相対性理論の検証やブラックホールの解明といったものから、近地球小惑星のサンプルリターンに至るまで幅広い科学領域が含まれています。
では、選ばれた4つの計画をみていきましょう。
■系外惑星望遠鏡計画 (EChO: Exoplanet Characterisation Observatory)
ラグランジュ点(L2,地球から約150万キロ離れた地点)に望遠鏡を設置し、これまでみつかっている系外惑星について、その大気などを調べ、生命の存在に適しているかどうかなどを調べる計画です。
高解像度、多波長観測が可能な望遠鏡を設置し、大気組成や温度、反射率などを調べます。それにより系外惑星の進化や内部構造などを調査し、我々の太陽系の成因の理解にもつなげる計画です。
■ブラックホールX線観測用大型墓園教計画 (LOFT: The Large Observatory For X-ray Timing)
ブラックホールの性質、特にブラックホールの周囲にある事象の地平線周囲の物質の挙動や、中性子星における物質の様子などを探るための大型望遠鏡です。
ブラックホールや中性子星からの強く幅広い波長でのX線を探るため、この計画では2つのX線望遠鏡を搭載します。1つは今の人工衛星搭載型のX線望遠鏡よりも幅広い実行観測領域を捉えることができる広範囲検出装置。もう1つは、天空の広い領域をモニターできる広範囲モニターです。空間解像度が高いため、LOFTではブラックホールや中性子星といった天体、特に我々の銀河系の中心にある天体の性質を解明することが期待されます。
■マルコ・ポーロR (MarcoPolo-R)
始原的な近地球小惑星からサンプルリターンを行う計画です。これにより、惑星形成や岩石進化などについての新たな知見が得られると考えられます。
また、この探査では、近地球小惑星がこれまで隕石の中からはみつかっていない太陽系形成前の物質を持っているのかどうか、有機物の起源などはどのようなものなのか、また生命につながるような分子などがあるのかどうかなどについても調べる予定です。
■時空探査・量子等価原理検証探査 (STE-QUEST: The Space-Time Explorer and Quantum Equivalence Principle Space Test)
重力が質量と時間に与える影響を精密に調査することを目的にした探査です。相対性理論における等価原理(慣性力と重力とは同一の力であるという考え方)を厳密な形で検証することを目指しています。そのために、探査機に搭載した原子時計と地上に置いた原子時計との間の時間のずれを極めて厳密に測定し、時空のゆがみを計算することを目指しています。また、自由落下の一般性(弱い等価原理ともいう。どのような物体であっても、ある重力場の中では、発生する重力は一定であるという原理)の検証も行います。
(編集長注)
この4つの探査の中で注目されるのは(というより、月探査情報ステーションとしてですが)、なんといってもマルコ・ポーロRでしょう。
日本の小惑星探査「はやぶさ」については、その後継機として、現在「はやぶさ2」が検討されています。さらにその次についても既に検討が進められており、それについては「はやぶさマーク2」(MkII)という名称がつけられています。
「はやぶさ2」は「はやぶさ」とあまり変わらない機体での飛行を目指しているのに対し、「はやぶさMkII」の方はまったく新たな機体での飛行を目指しています。
この探査については、ちょうど同時期に小惑星探査を検討していたヨーロッパとの共同探査を目指すこととなり、こうして、「はやぶさMkII」は「マルコ・ポーロ」として検討されることになりました。
2008年には、この「マルコ・ポーロ」が50件の中から第一次審査を通過した8件の探査の中に選ばれています。その後、再度検討が加えられた上で、次の機会としてまた選ばれたのが、この「マルコ・ポーロR」というわけです。Rはおそらく、”re-proposed”(再検討)でしょう。
ただ、このあとこの「マルコ・ポーロR」が最終候補にまで残るかどうかは不透明であり、それがまた「はやぶさ2」後の日本の小惑星探査の道筋にも大きな影響を与えます。我々としても注視していかなければならないでしょう。
・ESAのプレスリリース (英語)
  http://sci.esa.int/science-e/www/object/index.cfm?fobjectid=48467
・マルコ・ポーロR (英語)
  http://www.oca.eu/MarcoPolo-R/
・マルコ・ポーロ (はやぶさ2プロジェクトのページ)
  http://b612.jspec.jaxa.jp/mission/marco.html
・はやぶさ (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/hayabusa/