ある意味、ついに「その時代がやってきたのかな」というのが、一報を聞いたときの第一印象でした。
アメリカの宇宙輸送ベンチャー企業「ムーン・エクスプレス」は、アメリカ政府による許可を得て、民間企業として世界ではじめて、月探査を実施することになったと発表しました。打ち上げは2017年(=来年)です。
8月3日にムーン・エクスプレスが発表した声明によると、2017年にはじめて実視される探査は月への着陸となり、民間企業がつき探査を行うという歴史的に新たな展開を開くものになるとしています。
今回、ムーン・エクスプレスはアメリカ連邦航空宇宙局(FAA)およびホワイトハウス、さらには国務省やNASAなど、アメリカ政府の関連機関と緊密な協議を重ね、この決定に至ったと述べています。
ムーン・エクスプレスによれば、これまで民間宇宙開発は地球周辺の低軌道から静止衛星軌道(高さ3万6000キロ)までに限られてきましたが、今回の決定はそれを越え、他の天体へはじめて、民間企業が探査機を送り込む(彼らの表現でいえば「go out of this world」、つまり「別世界へ旅立つ」)ことを認めたという意味で画期的だとしています。
同社は、今回の決定が平和目的の民間企業による月探査に道を開くものであり、また技術、科学、研究や開発において大きな加速が期待できるということを述べています。さらには、ベンチャー企業がさらなる発展を遂げていくうえでも重要な決定になるだろうと述べています。
今回の各政府機関との交渉は最終的にアメリカの運輸省長官により最終的に認可が下され、宇宙条約に抵触しない形での探査が行われることを条件に認可されたようです。
ムーン・エクスプレスの最高経営責任者(CEO)兼共同設立者であるナビーン・ジェイン氏は、「宇宙はムーン・エクスプレスだけに限られたものではない。ここ(宇宙)はスタート点(launchpad)に過ぎない。今回の一歩は人類にとっての大きなブレークスルーとなりうる。宇宙旅行は、私たちにとって唯一の生存のための道であり、私たちの子どもに制限のない未来を約束するものである。ごく近い将来、私たちは貴重な資源、そして月の石を持ち帰るだろう。」と述べ、この決定を歓迎しています。
このジェインCEOの話にもある通り、今回の2017年のムーン・エクスプレスの探査は、月資源の探査を目的にしたものです。
月にはいろいろな資源があるということはアポロの探査以来多くの科学者が指摘してきました。例えば、つき表面の砂の中には、太陽からやってきたヘリウム3があり、将来的に核融合発電を行い、月や地球のエネルギーをまかなえるという期待があります。また月の高地の岩石にはアルミニウムを非常に豊富に含むものもあり、地球より安価に採掘が行える可能性があります。
さらに1990年代の月探査によって、月にも水が存在するのではないかという可能性が多くの科学者により指摘されるようになりました。これは先日の嫦娥3号についてのブログ記事でも書いた通りまだ完全に確定してはいませんが、特に月の極地域の「永久影」と呼ばれるクレーターの影の部分に水が存在する可能性が高いことが知られています。
こういった月に眠る資源について詳細に調査し、将来の事業の可能性を探ろうというのが、今回のムーン・エクスプレスの計画のようです。
同じくムーン・エクスプレスの共同設立者および最高経営責任者(CEO)であるボブ・リチャーズ氏は、「今回の2017年探査計画の承認は(私たちにとって)ミッションに向けた大きな一里塚であり、民間企業が商業目的で地球軌道を越え、他の天体へと向かうことを認める画期的なものである。我々は今や、地球の8番目の大陸とも呼べる月に向けて進み、そこから新たな知識、新たな資源を獲得し、地球の経済圏を月へと拡大し、人類に多くの利益をもたらすことを狙っている。」と述べています。
リチャーズCEOの話もあるように、この決定は、民間企業がはじめて月探査を行うというだけにとどまらず、ここのところアメリカで高まっている小惑星の資源探査計画にも大きな影響を及ぼすでしょう。おそらく近いうちに、同様に小惑星への(資源探査を目的とした)民間企業の探査機の飛行が承認され、月や小惑星での、民間企業による資源探索を目的とした探査が実施されるのではないかと思います。
ただ、それを支える法律、とりわけ国際法についてはまだしっかりと固まっているとはいえません。今回は彼らもアメリカ国内の複数の政府組織との交渉を行った上で、最終的に宇宙条約を守る形での探査を実行すると述べていますが、そもそもアメリカ自身が2015年宇宙法の中で「アメリカの民間企業が宇宙より取得した物質についてはすべてその企業が所有するものとする」という条項を成立させており、宇宙条約とも微妙なズレがあるように思われます。
ムーン・エクスプレスは、来年が期限となる月探査競争「グーグル・ルナーXプライズ」にも参加しており、今回の探査がその探査機を指すのか、あるいはそれとは別に探査機を打ち上げるのかどうかはわかっていません(ムーン・エクスプレスは、グーグル・ルナーXプライズの中でも有力チームです)。
ただ、いずれにしてもアメリカ政府は、月に民間企業の探査機を(資源取得目的で)飛ばしてよいという歴史的な判断を下しました。これは、これまで地球の静止軌道以遠の探査(月・惑星探査)については国の、科学目的の探査だけに限られてきたという状況を一変させる可能性を秘めています。
アメリカ以外にも宇宙資源採掘に積極的な姿勢をみせているルクセンブルクなどがどういう反応をみせるのかも注目です。そして日本はそれにどう呼応すべきなのか、何らかの速やかな意思決定が必要でしょう。
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