2014年の打ち上げを目指して開発が進められている小惑星探査機「はやぶさ2」について、本日、報道陣への機体公開が行われました。これは、探査機そのもの(構造体)や太陽電池パネルなどについてはフライト品が完成し、これから試験を行うという段階に差し掛かったことによるものです。この公開に先立って、JAXA相模原キャンパスで記者会見が行われました。
記者会見には、JAXA月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC)の國中均・プロジェクトマネージャーと、科学側のリーダーである渡邊誠一郎・名古屋大学教授(「はやぶさ2」プロジェクトサイエンティスト)が出席しました。
渡邊教授はこの10月にプロジェクトサイエンティストに就任したばかりとのことです。
國中教授は、「はやぶさ2」の探査の意義について、3つの点を強調しました。すなわち、「探査の意義・科学の意義・技術の意義」という3つの点です。探査全体の意義については、「未踏峰への挑戦」という言葉を使い、新たな技術や科学への挑戦がこの「はやぶさ2」の最もメインとなる部分であることを強調しました。
「はやぶさ2」については、以前の「はやぶさ」との違いについて、次のような点を挙げました。

  • アンテナの違い。「はやぶさ」は皿型のアンテナを使い、X帯と呼ばれる電波帯だけを使った通信だったが、「はやぶさ2」では平面アンテナを使用し、X帯に加えKa帯という電波帯も使用し、より高速で通信が行えることを目指している。
  • イオンエンジンについては、「はやぶさ」では8ミリニュートンという推力だったが、「はやぶさ2」ではその約2割増しに当たる10ミリニュートン級のものを使用する。
  • 分離ロボットについては、「はやぶさ」ではミネルバというロボットを1機搭載していったが、「はやぶさ2」ではミネルバ級のロボットを3機、さらにドイツから「マスコット」(MASCOT)という名前のロボットの提供を受け、合計4機搭載する。
  • 「はやぶさ」で不具合を起こした姿勢安定装置(リアクションホイール)については、「はやぶさ」では3機だったが、「はやぶさ2」では4機となる。

という点を挙げました。さらに、2010年12月に金星周回軌道投入に失敗した「あかつき」では科学推進系に不具合があったという点を教訓として踏まえ、この点に対処を加えていることも述べました。
国際協力については、現在、NASA(アメリカ)、オーストラリア、DLR(ドイツ宇宙機関)、CNES(フランス国立宇宙機関)の4者との協力を進めているとのことです。
プロジェクトサイエンティスト就任について、渡邊教授は、『「はやぶさ2」で狙う科学を達成するためには、より広い分野の科学者の協力が必要だ。私自身は日本惑星科学会の会長も務めており、より広いコミュニティにアプローチすることを考えている。「はやぶさ」はどちらかというと小惑星そのものの科学に貢献していたが、『はやぶさ2」は更に広く、小惑星を通し、太陽系全般の科学、さらには太陽系形成などにつながる手がかりを見つけることが目標となる。』と述べています。なお、渡邊教授自身の専門は惑星形成論です。
ミッション全体の予算についての質問に対しては、國中プロジェクトマネージャーから回答がありました。帰還(2020年)までの費用としては314億円とのことです(打ち上げ費用も含む)。
なお、気になる打ち上げのタイミングですが、プロジェクトチームとしては現在、2014年12月期の打ち上げを想定して準備を進めています。これは、目的とする小惑星1999JU3との軌道のタイミングがあるためですが、打ち上げの機会は、このあと2015年6月、2015年12月にも存在はしています。ただ、時期が遅くなればなるほど推進機関(イオンエンジン)の負担が大きくなるため、早ければ早いほどよいということになります。
現在は機械環境試験という試験がこの実際の構体を用いて行われています。このあと1月には構体はつくばに運ばれ、筑波宇宙センターで音響試験が実施されます。なお、構体は打ち上げにも使用されるものですが、機器はまだ準備ができておらず、重心や重量などを合わせたダミーのものが使用されます。
来年(2013年)1月末から5月にかけては、1次噛み合わせ試験という、各種機器を組み合わせた試験が実施されます。2013年10月には最終的な形態(最終コンフィグレーション)が製造され、打ち上げに向けて各種試験(総合試験、熱試験、振動試験、電気試験など)が実施されます。そして、機体の完成は2014年夏を予定しています。