今年末にも打ち上げられる予定の中国の月探査機「嫦娥3号」ですが、このほど記者会見で、この嫦娥3号には「秘密兵器」が搭載されることが明らかになりました。といいましても別に本当の兵器ではなく、月面天文台(望遠鏡)でして、しかもこの望遠鏡は、月探査情報ステーションと少なからぬ関係があります。

新華社(英語版)の記事が伝えるところによると、この嫦娥3号に搭載される「月面天文台」は、近紫外月面天文望遠鏡です。この望遠鏡は、近紫外線という光の領域を捉える望遠鏡で、恒星や銀河系などの観測を行うとのことです。
いうまでもありませんが、月面は空気がありません(正確には「ある」のですが、地球に比べればはるかに薄いのです)。そのため、月面での天文観測は地球に比べてはるかに条件が良いとされています。
また、月面上には人工の光などがありません。そのため、光の雑音もなく、特に暗闇となる夜間には天文観測には最適な環境となります。

さらに、嫦娥3号には極端紫外線(紫外線の中でも波長が短く、X線に近い領域の紫外線)を観測する望遠鏡も搭載されるとのことです。この望遠鏡は地球のプラズマ圏の観測に用いられます。これは記事によれば「世界ではじめて」搭載されるとのことですが、極端紫外線を観測する望遠鏡は、同様に地球の電離層、プラズマ圏を観測するために日本の月探査衛星「かぐや」に搭載されています。着陸機に搭載されるという意味であればはじめてといえるでしょう。

このほかにも、嫦娥3号のローバーには、各種のカメラのほか、地下100〜200メートルの深さを探ることができる地下レーダー(電波による地下構造探査装置?)が搭載されるということです。

さて、この月面天文台、というか天体観測望遠鏡ですが、これを開発したのは、アメリカ・ハワイ州に本拠を置く、国際月面天文台協会(ILOA: International Lunar Observatory Association)です。
このILOAは月面からの観測による天文学の推進を目的とした団体で、すでに、月の南極に着陸を目指す民間企業、ゴールデンスパイク社とも共同で検討を進めています。
ILOAは2012年9月、中国科学アカデミー国立天文台と、嫦娥3号への望遠鏡搭載で覚書を交わしています。今回の搭載はそれに沿ったものとなります。

今後ILOAは、2016年にはILO-1と名付けた2メートル級の電波望遠鏡を月の南極地域に着陸させ、電波による天文観測を行うことを計画しています。このILOー1は、民間による月着陸競争であるグーグル・ルナーXプライズに参加している団体であるムーンエクスプレスの月着陸機により運ばれることになっています。
これに先立つ2015年には、口径7センチほどの天体望遠鏡、ILOーXを、同じくムーンエクスプレスの着陸機により月に運び、観測を実施することを計画しています。

さて、ILOAはこういった月面での天文観測を非常に熱心に推進していますが、その一方、天文学や月・惑星探査の普及・啓発活動(いわゆるアウトリーチ)にも大変熱心です。ILOAが主体となって、天文学や月・惑星探査について講演などを行うイベントである「ギャラクシーフォーラム」は、日本を含め世界各地で開催されています。
このギャラクシーフォーラムですが、日本での開催は月探査情報ステーション、そして編集長(寺薗)をはじめとする実行メンバーが、ILOA会長のスティーブ・ダスト氏と協力して行っています。なので、このニュースは月探査情報ステーションとも非常に深く関係することなのです。

なお、次回の日本のギャラクシーフォーラムは、2014年3月8日(土)に実施予定です。場所は今のところ、東京・お台場の日本科学未来館となる予定です。内容はまさに、ゴールデンスパイクとILOAとが進めている「月への有人探査」という話になる予定です。ぜひ、ご期待ください。