はやぶさ君は今週もイオンエンジンを用いた軌道変更に勤しんでいます。
はやぶさ君と地球との距離を測るのには、地球から送った電波がはやぶさ君まで行って帰ってくるまでの時間を計ります。電波の進む速度は光の速さと同じ秒速約30万kmなので、「はやぶさ君からの返事があるまでの時間×光の速さ」で往復の距離がわかります。通信の状態や他の運用予定にもよりますが、一回の運用中に何回も呼びかけては返事を記録して、より正確な値を求めます。
一方で、はやぶさ君の速度を測るのにはドップラー効果を使います。ドップラー効果とは、身近な例でいうと救急車が近づいてくる時と遠ざかっていく時ではサイレンの音が違って聞こえる現象のことです。近づいてくる救急車のサイレン音の波は、救急車の速度の分だけ波の間隔が詰まって高く聞こえます。逆に、遠ざかっていく救急車のサイレン音の波は、速度の分だけ波の間隔が延びて低く聞こえるのです。
この例は音波でのお話ですが、はやぶさ君との通信用の電波を使っても同じようなことが観測できます。地球に近づいてくるはやぶさ君からの電波は、近づく速度の分だけ波長が詰まって観測されるので、これを利用して地球から見たはやぶさ君の速度を測ります。
これらの方法と精度のよい時計と観測機器を使えば、地球とはやぶさ君とを結ぶ線と同じ向き(視線方向)の距離や速度を高い精度で測定することができます。イトカワの観測をしていた2005年の秋、はやぶさ君は地球から約3億kmの彼方にいましたが、視線方向に関してだけなら、地球とはやぶさ君との距離は10mの精度で、はやぶさ君の動きは0.1mm/secの精度で測ることができました。
一方で、視線方向と直行する向き、たとえばテレビの画面の上で上下左右に動くような位置を観測するのは、探査機の軌道決定では困難です。なぜなら、探査機がいるのが数億km先ということでどうしても誤差が大きくなるからです。たとえば、直径5cmくらいの小さな分度器を使って、模造紙いっぱいに正確な星型を書くのが意外に難しいのと同じ感覚です。したがって、3億km離れたイトカワを観測していた時点での、三次元的なはやぶさ君の位置決定精度は300km だったのです。
地上ではこれらの方法を駆使しながらはやぶさ君の位置や速度を決め、はやぶさ君を地球へと導くために日夜奮闘中です。
軌道決定に関する詳しい説明はこちらをどうぞ

2010年1月28日00時00分(日本時間では、1月28日の09時00分)現在のはやぶさ君は、地球からの距離45,964,850km、赤経9h37m5s、赤緯19.80度にいます。