NASAは、6月に打ち上げられた衝突探査機、エルクロス (LCROSS) の衝突地点を、月の南極付近にあるクレーター、カベウスA (Cabeus A)と決定しました。衝突時間は、アメリカ東部時間で10月9日午前7時30分、日本時間では同日午後8時半となります。この衝突場所は、月の南極付近で氷が存在しそうな場所ということで、チームによる厳しい審査の上決定されたものです。
LCSOSSは、打ち上げに使われたセントールロケットの第2段を月の南極付近に衝突させます。そしてLCROSS探査機自身もこの中へ突入し、ちりの成分などを調査します。LCROSSチームが選定したカベウスAクレーターは、地球からのちりの雲のみえやすさ、水素の濃集度の高さ、クレーターの底が平らであることなどからかなり古い(水(氷)があればかなり蓄えられていることが考えられる)こと、傾斜が緩いこと、また、巨大な岩などが存在せず、衝突させやすいことなどが選定理由となりました。

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上の図は、衝突地点のカベウスAクレーターの拡大写真です。この図は、カリフォルニア州ゴールドストーンにある、NASAの深宇宙ネットワークのレーダー探査により得られたもので、月の南極付近の図としては最新かつもっとも精度が高いものです。黄色の付近が傾斜が低い場所です。

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上の図は、カベウスAクレーター付近の水の濃集度の可能性を示しています。右側にスケールがありますが、青くなるほど水がある可能性が高いということがわかります。(Photo: V. Eke, Durham University, L. Teodoro, University of Glasgow and ELORET/NASA Ames, R. Elphic, NASA/Ames)
LCROSSの担当科学者で、NASAエームズ研究センターの主任研究員のアンソニー・コラプレート氏は、「カベウスAは、月科学者のコミュニティにおける大変多くの議論の結果選定されたもので、さらには、地球からの観測や、かぐや、チャンドラヤーン1,ルナー・リコネサンス・オービターなど他の観測機からのデータも利用して決定した。チームは衝突、そしてその衝突というユニークな方法の探査により多くの科学的成果が得られることを楽しみにしている。」と述べています。
LCROSSの衝突を観測し、科学的に最大の成果を挙げるために、天文学者たちが地球上でも最大の望遠鏡を使った観測を実施する予定です。ハワイにあるケック天文台の赤外線望遠鏡装置、ニューメキシコ州マグダレナ渓谷にあるアパッチリッジ観測所、アリゾナのMMT天文台などが参加します。また、先頃のスペースシャトルによる修理ミッションで性能復活を果たしたハッブル宇宙望遠鏡、そしてもちろん、月を周回しているルナー・リコネサンス・オービターも観測を行います。
エームズ研究センターで観測キャンペーンを主宰するジェニファー・ヘルドマン氏は、「LCROSS観測キャンペーンには、これら以外にもさらに多くの望遠鏡が加わる予定だが、いろいろな視点から、異なる観測方法での観測が加わることは大きな利点である。こういう複数の観測により、LCROSS探査機自身が取得するデータを補うことができ、カベウスAクレーターに氷(水)が存在するか否かを見いだすことに役立つだろう。」と語っています。
9月11日に行われた記者会見では、LCROSSの探査責任者であるダニエル・アンドリュース氏がLCROSSの現状について触れ、探査機は順調であり探査目標をすべて達成できる見通しであると述べています。またさらに、アンドリュース氏は、今回のLCROSS探査を、アメリカでは伝説的なニュースキャスターであり、先頃(7月17日、アメリカ現地時間)亡くなったウォルター・クロンカイトに捧げると発表しました。クロンカイト氏はCBSのニュースキャスターとして長年テレビのニュース番組を担当し、アポロ計画からスペースシャトルの時代まで長年にわたり、NASAの宇宙計画について伝えてきた人でもあります。
会見の席で、ウォルター・クロンカイト氏の息子のチップ・クロンカイト氏は、「父は、たとえ名前だけであったとしても、人間がふたたび月へ戻り、その先へ向かうという試みに加わることができたことを、きっと誇りに思うことだろう。」と語っています。
(編集長注)
ウォルター・クロンカイト氏は、アポロ11号の月面着陸の際にも生中継を担当し、アームストロング船長が着陸船が無事月に降り立ったことを報告した際、そのことを伝えるのに、めがねを取り「オー・ボーイ!」(Oh, Boy! おおすごい!といった意味)とつぶやいたことが知られています。
先頃のアポロ11号の40周年の際にも、当時のアポロ11号の乗組員が、ウォルター・クロンカイト氏に対して哀悼の辞を捧げています。
(編集長注)
カベウスAクレーターは、南緯82.2度、東経320.9度に存在するクレーターです。直径は48キロで、月にある名前がついたクレーターとしては標準的な大きさといえます。
なお、月のクレーターの名前の付け方ですが、主に科学者の名前がつけられます。カベウスは16〜17世紀のイタリアの天文学者、カベオ・ニッコロ・カベウスにちなんで名付けられました。
なお、「A」「B 」…という名前は、大きなクレーターのそばにあるやや小さなクレーターに対して、順につけられるものです。カベウスクレーターはそのそば(南緯84.9度、東経325.5度)にあり、直径は98キロあります。
・NASAのプレスリリース (英語)
  http://www.nasa.gov/centers/ames/news/releases/2009/09-118AR.html
・NASA Selects Target Crater for Lunar Impact of LCROSS Spacecraft (NASAプレスリリース、英語)
  http://www.nasa.gov/home/hqnews/2009/sep/HQ_M09-171_LCROSS_Target_Selected.html
・ルナー・リコネサンス・オービター/エルクロス (月探査情報ステーション)
  http://moon.jaxa.jp/ja/topics/LRO/