NASAがこの6月に打ち上げたルナー・リコネサンス・オービター(LRO)は、私たちにとってもっともなじみ深い天体、月についての重要な発見を次々に成し遂げています。このLROに搭載された機器によって得られた成果が、現在開かれている学会で発表されました。LROはこの先、これまで集めた以上のデータを地球に送ってくると期待されています。
この学会は、アメリカ・サンフランシスコで開催されている、アメリカ地球物理学連合(AGU: Americal Geophysical Union)の大会で、科学者は、LROに搭載されているカメラ(LROカメラ=LROC)や放射線影響測定用宇宙望遠鏡(CRaTER)、月放射測定実験(DLRE)のデータから得られたさまざまな成果についての発表を行っています。これらの機器は驚くべきデータを地球に送ってきており、科学者たちが月について非常に細かな部分まで把握し、また月の環境を理解する上で大きな役割を果たしています。
LROCはすでに、アポロ着陸点をはじめ、NASAのコンステレーション計画(有人月探査計画)において月の代表的な地形であると認められた50カ所について、高精度での写真撮影を行っています。
「実質的、科学的な側面からみて、アポロ着陸点はLROCの狭角カメラにとって、この上もなく魅力的なキャリブレーション(校正)地点となる。」と語っているのは、LROCの主任科学者である、アリゾナ州立大学のマーク・ロビンソン博士です。
「宇宙飛行士が残してきた各種の物体の場所は、9フィート(約30センチ)の精度でわかっている。そこで、私たちは狭角カメラの幾何学・時間的なキャリブレーションを、アポロのレーザ反射測定装置、そして、アポロ月表層実験パッケージ(ALSEP: Apollo Lunar Surface Experiment Package)に対して行うことができる。この結果、月のどこであっても、より正確な位置座標を得ることができるようになっている。科学者たちは現在、アポロ宇宙飛行士たちが歩くなどして巻き上げた表層物質の明るさの違いについて研究している。その周辺の表層物質の明るさとの違いをみているのだ。kのような解析は、LROだけではなく、インドの月探査機チャンドラヤーンや、日本の月探査機『かぐや』によって得られたデータを調べる際にも重要な情報となる。」(ロビンソン氏)
また、ロビンソン氏は、「コンステレーション計画での50カ所の撮像では、1メートル、ないしはそれ以上の解像度のデータが得られている。高解像度の画像は、月の表面が地質学的に複雑であることを明らかにし、科学的に大変興味深く、またこれまで限られた場所で行われた探査によって得られた内容を遙かに超える幅広い様相を知ることにつながった。」と語っています。
コンステレーション計画の技術者が遭遇することになると想定されるいろいろな場所を選んで、これらの撮像は行われています。
LROの月放射測定実験により、月の極地域にある永久陰領域がものすごく冷たい環境であることがわかりました。北極地域にあるクレーターの中でももっとも冷たい場所で、冬のまっただ中の夜間の最低気温は、なんと26ケルビン(摂氏マイナス249度)にも達していました。この装置の主任研究者である、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のデビッド・ページ氏は、「この温度は太陽系のあらゆる場所で測定された中でももっとも低い温度である。これだけ温度が低ければ、水や二酸化炭素、有機物分子など、いろいろなものを十分閉じこめておける。そこにはいろいろな物質が閉じこめられているに違いない。」と述べています。
放射線影響測定用宇宙望遠鏡は、月での宇宙放射線の量を調べ、宇宙飛行士が長期にわたる活動を月周辺、あるいは将来的には太陽系の他の場所で行う際にどのくらいの防護装備が必要か、といったことを調べる装置です。「ちょうど今は驚くべき太陽活動極小期で、太陽磁場の活動が非常に静かなので、その分銀河宇宙線の流量は、人類の宇宙進出以来最高のレベルに達している。十分なエネルギーを持った宇宙線が望遠鏡に飛び込むというのは非常にまれなできごとではあるが、だいたい1秒に1回くらいは起きており、これは事前の予想の2倍に達している。この望遠鏡での測定は、太陽活動が静穏な最悪ケースの時期においての測定ということで、宇宙飛行士用のシェルターをどのように設計すればいいかについての示唆を与えてくれる。」(宇宙望遠鏡の主任研究者である、ボストン大学、およびニューハンプシャー大学ダーラム校のハーラン・スペンス氏)
銀河宇宙線は、電気を帯びた粒子、すなわち電子や原子核で、光の速度に近い速さで太陽系に飛び込んできます。太陽風の影響を受けた磁場によって、これらの宇宙線は太陽系の内側にやってくると進路を乱されます。しかし、太陽は現在これまでになく静かな状態を長期間にわたって保っており、惑星間の磁場、そして太陽風の圧力は観測以来最も小さいものとなっています。このことが、銀河宇宙線の測定量を最高にした理由であると考えられます。
科学者たちは、LROが科学観測のために低い軌道に移れば、銀河宇宙線の測定量は下がると考えてきました。銀河宇宙線は文字通り宇宙のあらゆる方向からやってきますが、探査機の高度が下がれば、月が探査機から見える半分以上の領域を覆って宇宙線をブロックしてしまうためです。しかし、実際には測定量はそれほど下がりませんでした。スペンス氏は、これは宇宙線と月表面との相互作用によるものと考えています。「(宇宙から太陽系に飛び込んでくる)一次宇宙放射線は、月面に衝突してその表層物質の原子と衝突して、二次放射を作り出す。月の表面はこのような二次放射線を多量に生み出していて、その量は予想より30〜40パーセントも多かった。」(スペンス氏)
宇宙線はまた、太陽の激しい磁場活動によっても生成されます。太陽は11年周期で活動が活発な時期と静穏な時期を繰り返しています。活発な時期には、太陽フレアのような、磁場が引き起こす激しい爆発現象がみられます。そしてこのフレアによって粒子が加速されて、飛んでくるのです。「私たちは大規模な太陽フレアを心待ちにしている。それにより、太陽起源の宇宙線がどのくらい危険なものであるかを測定できるからだ。しかし、太陽がまた活動を活発にするにはあと数年は待たないといけないだろう。」(スペンス氏)
・NASA Unveils Latest Results From Lunar Mission, Helps Prepare for Next Stage of Scientific Discovery (ゴダード研究センターのプレスリリース: 英語)
  http://www.nasa.gov/mission_pages/LRO/news/agu-results-2009.html
・ルナー・リコネサンス・オービター/エルクロス (月探査情報ステーション)
  https://moonstation.jp/ja/history/LRO/