はやぶさ君は今日も元気に航行を続けています。
8/13に、はやぶさ君がセーフホールドモードに入っているのが発見されました。現在までに、原因究明と復旧作業が終わり、大過なく「遠日点に伴うイオンエンジン停止期間」に入っております。地球帰還への影響はありません。
セーフホールドモードとは、探査機自身が何らかの異常を感じた時に、もっとも安全だと思われる退避姿勢を取りながら、地球からの指示を待つことです。「地震のときには机の下に隠れる」みたいなものですね。
はやぶさ君の場合は、イオンエンジンとリアクションホイールを止めて、太陽電池パネルとハイゲインアンテナを太陽に向けたまま、ゆっくりと回転することになっています。そうして、太陽電池で発電する電力を確保しながら、地球との通信を試みるのです。
今、はやぶさ君が使っているアンテナは、ミディアムゲインアンテナでして、電波の強さも、指向性も中くらいのアンテナです。ローゲインアンテナでは、電波が弱いので地球と十分な通信できませんし、ハイゲインアンテナは、指向性が強いので、向きがぴったりと合わないと通信できないため、今の はやぶさ君には使いにくいのです。
8/13の朝8時30分、はやぶさ君からの電波の強度が周期的に変化することから、運用スタッフ一同は、はやぶさ君がセーフホールドモードに入って、回転していることに気づきました。はやぶさ君からの電波が受信できるのは、廻っている はやぶさ君のアンテナが地球の方向を向いている間だけだからです。
はやぶさ君からの電波は、だいたい30分ちょっとでやってきます。つまり、はやぶさ君は、30分ちょっとで一回転しているのです。
例えば、メリーゴーランドに子供が乗っていて、お母さんがさくの外側にいるとします。子供がお母さんと、顔を見ながらお話できるのは、子供の乗っている乗り物がお母さんの方向にやってきたときだけです。
このメリーゴーランドが廻っている はやぶさ君、子供が はやぶさ君のミディアムゲインアンテナと考えていただくと良いでしょう。
まずは情報収集と原因究明です。
廻っている はやぶさ君からの電波が受信できるタイミングを見計らって、はやぶさ君のデータレコーダにあるデータをダウンロードします。
幸い、臼田さんが強力ですので、臼田さんからはやぶさ君への通信は、いつでもできます。
上の例えで言うと、お母さんはマイクを持っているので、いつでも子供に指示を出せるのです。
しかし、はやぶさ君から臼田さんへの通信は、30分に一回しかできませんので、それぞれのチャンスに狙いを定めて、根気強くデータをおろしながら、「はやぶさ君に何が起こったか?」の議論を繰り返しました。
これらのデータを良く調べたところ、はやぶさ君の姿勢を監視している機器にシングル・エラー・アップセット(SEU)が起こり、間違った情報を出し、これを異常だと判断した はやぶさ君がセーフホールドモードに移行したようです。
SEUとは、宇宙放射線などの荷電粒子がメモリの素子に当たることにより、その素子に書き込まれていた情報が、反転してしまう、一時的なエラーです。
そのメモリを、もう一度書き直してやれば、このエラー自体は、すぐに解決できます。
間違った姿勢情報を貰った はやぶさ君は、これに対して冷静に対処しました。イオンエンジン、リアクションホイールを止め、セーフホールドに入ったのです。
例えてみると、はやぶさ君は、「揺れた!」と勘違いして、机の下にもぐりこみ、算数のテストの時間を無駄にしてしまったような感じです。
そして、はやぶさ君が「揺れた!」と勘違いした原因は、いたずらっ子の飛ばしていた消しゴム(宇宙放射線)のうちの一つが、運悪く、はやぶさ君の座っているいす(姿勢監視装置)に当たったからという感じでしょうか。
はやぶさ君は、勘違いはしたものの、冷静に机の下にもぐるという正しい対応をしたのです。
そして、忙しさを極めたのが、軌道計画のグループです。
このグループは、はやぶさ君がどのタイミングで、どの向きに、どの程度イオンエンジンを吹けば地球に戻ってこられるかを計算しているのですが、はやぶさ君が勝手にイオンエンジンを止めてしまったため、今後の軌道を計算しなおさなくてはいけないことになりました。
お盆の後半から一週間、検討に検討を重ねた結果、はやぶさ君の新しい軌道計画が作られました。幸いにして、はやぶさ君は、予定通り地球に帰ってこられるはずです。
今は、はやぶさ君が遠日点付近にいることもあり、発電量にゆとりがありません。また、バッテリも使えなくなっておりますので、消費電力が発電量を一瞬でも上回ると、はやぶさ君のブレーカーが落ちてしまいます。
万が一、はやぶさ君のブレーカーが落ちてしまったら、はやぶさ君は死んでしまいます。けれども、イオンエンジンを再点火する時には、どうしても、つけっぱなしにしておく時よりも少し余計に電気がいるのです。
そこで、しばらくは、イオンエンジンを止めたまま、太陽電池パネルを太陽に向けて回転しながら時期を待つことにしました。9月下旬になって、はやぶさ君がもう少し太陽に近づいて、電力事情が改善されたら、イオンエンジンの再点火を行う予定です。
この騒動でお盆や土日を返上したスタッフたちは、今、ようやく胸をなでおろしています。
はやぶさ君が地球に帰還できるように、今日もみんなでがんばっています。
—イベント情報—
宇宙科学技術連合講演会: 宇宙を楽しむ市民シンポジウム
小惑星探査機「はやぶさ」の物語
日時:9月13日 午前10時〜12時
場所:京都市青少年科学センター
入場無料!
2009年8月26日4時35分(日本時間では、8月26日13時35分)現在のはやぶさ君は、地球からの距離271,133,840km、赤経5h56m53s、赤緯22.86度にいます。