ジュース 探査の概要

■謎を秘めた木星ガリレオ衛星への壮大な旅

ジュース(JUICE: JUpiter ICy moons Explorer)は、ヨーロッパが中心となり、日本を含めた国際的なグループが進める木星及びその衛星の探査計画です。

木星探査はこれまでも何回か実施されてきました。1970年代にはパイオニア探査機(2機)およびボイジャー探査機(2機)が木星をフライバイ(通り過ぎ)して観測を行い、人類ははじめて木星の詳細な姿を目にしました。ボイジャーによるイオの火山の発見は、私たちの太陽系に関する考え方を一変させる大発見でした。
1990年代にはガリレオ探査機が木星とその衛星を探査。パイオニア、ボイジャーが通り過ぎての探査だったのに対し、周回による詳細な探査を実施しました。木星大気をプローブにより直接観測したほか、たまたま発生したシューメーカー・レビー第9彗星の衝突跡の観測、そして木星やその衛星の詳細な観測を実施しました。
その後も、2011年には探査機「ジュノー」が打ち上げられました。ジュノーは木星本体の大気や磁場、重力の詳細観測を主な目的にしていますが、そのほかにも搭載されているカメラ「ジュノーカム」は木星本体やその衛星の極めて詳細、そして美しい画像を多数撮影しています。

これらの探査で、木星、そしてその衛星について、様々なことがわかってきました。特に、木星の4つの巨大衛星「ガリレオ衛星」(注)は、その1つ1つが独特の素顔を持つことが明らかになってきています。
エウロパには、その地下に海を持つことがほぼ確実視されています。おそらく他の2つの氷衛星、ガニメデとカリストにも海があるのではないかと思われます。
海があるということは、液体の水が存在することを意味しています。それは、私たち地球のように、ひょっとして生命を宿すことができる環境があるのではないか、という想像をかき立てます。

しかし、私たちがガリレオ衛星について知っていることはまだまだ限られています。木星本体についてもそうです。
この知識を拡大し、木星とその衛星についての知識を飛躍的に拡大させる…ジュースは、そのような大きな目的を持って進められているミッションです。

(注)ガリレオ衛星…木星の衛星の中で特に巨大な4つの衛星。内側からイオ、エウロパ、ガニメデ、カリストの4つ。天文学者ガリレオ・ガリレイが1610年に発見したことからこの名がある。

■木星とその衛星の謎を解き明かす

ジュースの科学的な目的は、大きく分けて3つあります。

  • ガリレオ衛星に生命がいるかどうかの可能性を追求する
  • 太陽系の起源の解明
  • 木星の磁気圏の謎を探る

それぞれを一つずつみていきましょう。

<ガリレオ衛星に生命がいるかどうかの可能性を追求する>

上述のように、ガリレオ衛星のうちイオ以外の3つ、エウロパ、ガニメデ、カリストには海がある可能性が高い、あるいは可能性があるとされています。
海があるということは水が存在することです。地球よりもはるか遠く、表面が氷で覆われた衛星に水(海)が存在する、それだけでも科学的に興味深いことではあります。しかも存在するのは地下であるということで、その地下の世界がどのようになっているのかについては、科学的な側面だけではない興味をそそられます。

海は、地球上での生命誕生の場所とも考えられています。もちろん、水の存在は生命には欠かせません。「はやぶさ2」でも、水を含めた有機物が豊富とされる小惑星へと赴いています。
ジュースでは、ガリレオ衛星のうちエウロパ、ガニメデ、カリストを詳細に調査することで、その海の存在の有無、さらには存在するとした場合の具体的な状況を調べます。それにより、これらの海が生命の発生や存在に適しているかどうかを見極めることができます。

もし地球以外に生命の存在に好適な環境があるとすれば、私たちの生命への見方を一変させる知識になることでしょう。ジュースの探査にはそのような大きな可能性が秘められています。

<太陽系の起源の解明>

木星は、いうまでもなく太陽系最大の惑星です。その大きさは、太陽系の誕生やその後の進化に大きな影響を与えてきたことは間違いありません。現在でも他の天体に重力などを通した影響を与えています。

ただ、その木星がどのようにしてできたのか、そしてなぜ木星のような巨大な惑星が誕生したのかは、いまもってわかっていません。それを理解するためには太陽系全体の形成論を知る必要がありますし、逆に、木星のような巨大な惑星が誕生したことは、太陽系の形成論の中で忘れてはならない大きな条件ともなります。

更に、木星の衛星には、太陽系が形成されたときの物質がまだ残っている可能性もあります。そもそも木星の衛星系がどう形成されたのかも、科学的な非常に興味がある課題です。

ジュースでは搭載された科学機器による探査を通して、これらの課題に答えを出すことを目指します。

<木星の磁気圏の謎を探る>

目にはみえないためなかなか目立たないのですが、木星の最大の特徴の一つは、それが持つ磁場です。
木星の磁場の強さは赤道付近で410マイクロテスラ、地球の磁場(30〜60マイクロテスラ)と比べて実に10倍近く、あるいはそれ以上となるものです。もちろん、太陽系の惑星が持つ磁場の中では最強です。

この磁場は、木星本体、そして周辺に大きな影響を及ぼしています。
地球のように、木星でも両極地域にオーロラが発生します。しかしそのオーロラはなんと、地球の1000倍もの規模を持つという壮大なものです。もちろん木星が地球よりはるかに(半径で11倍、重量で約320倍)大きいこともありますが、それを考慮に入れたとしても壮大なものです。地球からハッブル宇宙望遠鏡で観測できるほどです。

また、これらの磁場は、木星の衛星にも影響を及ぼしています。特に強い磁場の中を公転している衛星イオは、このオーロラ発生にも大きな役割を果たしているといわれていますし、逆にイオに対しても磁場が大きな影響を与えているとされています。
さらに、この磁場はいわば「加速器」のような役割を果たし、周辺のプラズマに影響を与えています。

こういった、木星の強力な磁場がもたらすダイナミクスを調べることも、ジュースの大きな目的となっています。

■2023年打ち上げ、ミッション終了は2030年代なかば

ジュース探査機は、2023年4月13日に、南アメリカのフランス領ギアナにあるESAの打ち上げ基地(クールー宇宙センター)から打ち上げられます。

木星は地球から遠く離れた惑星です。木星に赴くためには地球からのロケット打ち上げの加速力では足りません。そのため、ジュースは打ち上げ後、他の惑星の引力を借り(スイングバイ)加速します。2024年8月に地球、2025年8月に金星、2026年9月及び2029年1月に地球にスイングバイを行って加速したあと、2031年7月に木星に到着します。
到着後は木星本体、そして各衛星にフライバイ観測を行います。そして2034年にガニメデに到着、約1年間にわたって周回探査を実施します。探査終了は2035年が予定されています。打ち上げから探査終了まで、実に12年にわたる(到着までも8年がかりの)、まさに壮大な惑星探査といえるでしょう。

なお、当初の予定では、2022年に打ち上げ、2029年木星到着、2032年にガニメデ周回軌道への投入となっていました。

ジュースはヨーロッパが主体となっている探査計画ですが、日本も重要な役割を占めています。
ジュースにはカメラや分光計(スペクトロメーター)、電波を発して地下を調べる「レーダーサウンダー」(日本語名称はレーダーサウンダ)、磁力計など、合計で11もの機器が搭載されます。数多くの最新の科学機器により、木星とガリレオ衛星の謎を解き明かすことが期待されます。

これらの科学機器のうち、6つには日本人研究者が参画しています。2つの機器については日本人研究者が主体となって開発しています。また、4つの機器は日本からハードウェアの一部を提供するなど、日本もジュースに関しては大きな役割を担っています。
もちろん、機器が取得した科学データの解析でも、日本の研究者が大きな役割を果たすことが期待されます。

また、参加している研究者が所属する組織も、JAXA宇宙科学研究所をはじめ、情報通信研究機構(NICT)京都大学東北大学など幅広いことも特徴の一つであるといえるでしょう。
日本とヨーロッパとの惑星探査における協力としては、2018年に打ち上げられた水星探査機「ベピ・コロンボ」がありますが、今回はこの協力関係や、共同開発で培った経験が大きく活かされているといえるでしょう。

また、これだけ多くの機器に日本人研究者が参画できるのは、日本がこれまで行ってきた月・惑星探査、とりわけ、超高層大気物理学に関連する探査における実績が高く評価されているからといえます。

木星とガリレオ衛星の謎を解き明かすジュースの探査に、大きな期待が寄せられています。