実際にそうなのかどうか、ということを確かめるには、辞書をみるのがいちばんです。
まず、月にまつわる言葉として、“lunatic”という言葉を辞書で引いてみて下さい。そうすると
精神に異常をきたしている、狂っている、愚かな、狂気の
といったかなりすさまじい意味が並んでいます。
なぜなのでしょうか。今度は語源を調べるため、英和辞典ではなく、あえて英語の辞書を使いましょう。語源については定評のあるオックスフォード英語辞典(OED: Oxford English Dictionary)で、“lunatic”という言葉を引いてみると、次のような意味だとされています。
Lunatic: from late Latin lunaticus, from Latin luna “moon”
(from the belief that changes of the moon cause intermittent insanity)
問題は上記の( )の中です。この部分を訳しますと、「月の変化が断続的な精神異常をもたらす」という意味になります。
なぜ、月の変化が精神の異常や狂気と結びつけられて考えられるようになったのでしょうか。いちばん有力な説としては、月の満ち欠けが、人間の性格を表しているということから来ているというものがあります。
月は満月になって、だんだんやせ細って最後にはなくなってしまいます。このように、人間の性格も時には満月のように丸々としているかと思えば、細い月のように変わる。特に、常に丸く変わらない太陽からすると、形を変えていく月というのが、その時々で変える(あるいは変わったようにみえる)人間の性格というのを表している、と昔の人は考えたのでしょう。
また、別の意味として、夜に輝く月という存在が、人間の心の奥底を照らしているということから、人間の裏に隠された狂気のような性格、ということを月が表している(太陽のような「表」の姿と、月の「裏」の姿)と考えられた可能性もあります。
いずれにしても、このような言葉が成り立つようになったのは中世のヨーロッパで、「月の光を浴びると気が狂う」というようなことが信じられてきました。狼男の伝説なども、このあたりが起源になっているといえるでしょう。
同じように、月を語源として「狂気」を意味する言葉には、”lunacy”という言葉があります。lunaticとよく似た意味合いで使われますが、lunacyは名詞です。
また、moonという言葉そのものにも、実はちょっと変わった意味があります。moonを動詞で使うと、俗語として「バカにする」といった意味になるのだそうです。このあたりにも、lunaticなどの言葉の影響があるのかも知れません。
■ 謝辞
本回答の執筆に当たって、lunaticの語源等については、会津大学の金子恵美子先生のご協力を頂きました。ありがとうございました。