小惑星の資源採掘という話が、SFの世界から、投資の話へと急速に「現実の世界」に進むことになりました。
アメリカの小惑星資源採掘ベンチャー企業、プラネタリーリソーシズ社は3日(アメリカ現地時間)、ルクセンブルク政府などとの合計2500万ユーロ(日本円で約28億6000万円)の投資を受け入れることで合意したと発表しました。さらに、この投資をもとに、2020年までに世界初の商業的な小惑星資源採掘ミッションを実施すると発表しました。2020年です。2016年もそろそろ終わりのいま、あと3年すれば、人類が小惑星から資源を採掘する時代になるというのです。

2500万ユーロの投資協定を結んだ、プラネタリーリソーシズ社社長とルクセンブルク副首相

総額2500万ドルにも及ぶ投資協定が成立し、握手を交わす、プラネタリーリソーシズ社のクリス・ルウィッキー社長(左)と、ルクセンブルクのエティエンヌ・シュナイダー副首相兼経済相(右)。出典: Planetary Resources Website (下記のリンク参照), Copyright © Planetary Resources.

プラネタリーリソーシズ社は、2009年に創業された、小惑星資源採掘を目指すアメリカのベンチャー企業です。創業者は、世界初の商業ベースの民間宇宙飛行を達成したピーター・ディアマンテンス氏と、クリス・ルウィッキー氏、エリック・アンダーソン氏の3人です。現在は小惑星資源採掘の準備段階として、小惑星観測用の宇宙望遠鏡「アーキッド」(Arkyd)の開発、打ち上げを実施しており、このアーキッドを利用した地球観測プログラムも実施しています。

今回発表された2500万ユーロにも及ぶ投資の内訳は、1200万ドルがプラネタリーリソーシズ社への直接投資、1300万ドルが補助金の形を取っており、両者はルクセンブルク政府、及びルクセンブルク信用投資銀行(SNCI: Soci é t é Natinale de Cr é dit et d’investissement)によって供給されます。
今回の決定は、今年6月にルクセンブルク政府の小惑星資源開発フレームワーク「SpaceResources.lu」と同社が合意した内容に基づくものです。

今回の融資により新規発行される株式の引受人はSNCIとなり、またSpaceResources.luの審議会メンバーであるジョルジュ・シュミット氏が、新たにプラネタリーリソーシズ社の取締役となります。
プラネタリーリソーシズ社は、同社のプレスリリースの中で、ルクセンブルクにヨーロッパにおけるビジネスの拠点を設置しており、国際的なビジネスや研究開発の中心としていきたいとしています。

今回の投資協定の締結に関して、両者のコメントです。
プラネタリーリソーシズ社のクリス・ルウィッキー社長兼CEO:

今回、ルクセンブルク大公国(編集長注: 文中ではGrand Duchyという言葉が多数使われていますが、今回はルクセンブルクを指すものとして使います)が当社のパートナー、そして投資者となることを大いに喜んでおります。同国のビジョンとイニシアチブに従い、官民のパートナーシップが結ばれたことにより、ルクセンブルクでは通信衛星事業が大いに発達しました。その例にならい、今回の出資と支援策は、私たちの事業を大いに加速させることでしょう。我々は、2020年までに世界初の商業小惑星資源探査衛星を打ち上げることを予定しており、ヨーロッパのパートナーと、この極めて重要な新しい分野で協力できることを楽しみにしています。

エティエンヌ・シュナイダー副首相兼経済相:

ルクセンブルク政府がプラネタリーリソーシズ社の株主となることは、我々とのパートナーシップ関係をより強固なものとすると同時に、この先の私たちの協力関係をしっかりとしたものとしていくことにつながっていきます。一方でこのような国家による投資は、宇宙資源開発やそれに関連するような分野における先進的な試みを我が国に誘致することにより、国家による宇宙開発への政府の強いコミットメントを示すものともなっています。ルクセンブルクはすでに官民パートナーシップにおいて長い歴史を持っております。1985年には衛星運用会社であるSESの創設にあたって株主となり、現在ではこの分野における世界的なリーダーとなっています(編集長注: SESはルクセンブルクに本社を置く通信衛星運用会社で、ヨーロッパを中心に50以上の静止通信衛星を運用、この分野では世界第2位の規模を誇る)。

プラネタリーリソーシズ社では、核となるハードウェア、ソフトウェアについてはすでに軌道上での実証試験を昨年実施しており、次に行うミッションとしては、地球表面から放射される熱量を正確に測定する熱センサーの開発になるとのことです。これは最終テスト段階に差しかかっているとしています。
もちろん、現時点では地球観測用のセンサーとして開発されていますが、ひとたび小惑星用に転用されれば、小惑星における水、あるいは水を含む鉱物の存在を検知するセンサーとして活躍することになります。こういったキーとなる技術の開発に、今回のルクセンブルクによる投資は大いに活用されることとなるでしょう。

もちろん、2020年に世界初の商業小惑星資源探査衛星を打ち上げるという計画がそのまますべて順調に進むかどうかはわかりません。しかし、すべての宇宙ミッションがそうであるように、順調でないときもあれば、着実に進んで実行に移されることがあるというのも事実です。そして、一見するとSFのような宇宙資源開発にルクセンブルクという国家が大金を投資するということは、この分野における技術開発が今後一気に進んでくる可能性を想起させます。
一方で、このような宇宙資源採掘においては法律面や倫理面で制度や条約などの整備が追いついていないことも確かで、現状では「やった者勝ち」になってしまう可能性が否めません。技術開発も重要ではありますが、こういった面で国際的な枠組みをどう構築していくか、あるいはその中で日本がどう関わっていくべきかを真剣に考える時期に来ています。
小惑星からサンプルを取ってきたのは世界でもまだ日本だけです。その意味では日本の発言力はこの分野で非常に大きいといえます。「やった者勝ち」が通る前に、しっかりとしたルール作りを日本が先導して行っていくことが求められます。

  • プラネタリーリソーシズ社のプレスリリース