ジョルダーノ・ブルーノ・クレーター
〜ハートゥングの仮説〜
■「年代記」の記述はクレーター衝突か?
この「年代記」の記述に現代の科学の光を当てたのが、アメリカ・ニューヨーク州立大学の科学者、ハートゥング(Hartung)です。
彼は、「年代記」の記述にあったいろいろな事柄について、以下のような科学的な解釈を加えました。つまり、この記述は、月に何らかの物体が衝突したことを表しているのではないか、というのです。
- ○月の弧の上半分が二つに分かれた
- 噴出した物質が月の光をさえぎった、あるいは、月を照らす太陽光をさえぎったため、月が隠れてしまった。
- ○たいまつのような炎が舞い上がり、火焔と火の粉とスパークが飛び散った
- 月面から、高温のガスやちりなどが飛び散ったのであろう。
- ○月はその体をもだえさせ、震わせた
- 舞い上がったちりや蒸気などの雲が、月の表面で乱流運動を起こし、そのため月の光に濃淡が生じて、月が「ふるえる」ようにみえた。
■そのクレーターを探せ
もし「年代記」の記述がクレーター衝突であれば、そのクレーターはいまでも月面にくっきり残っているはずです。ハートゥングは、目撃証言などを調べた結果、そのクレーターを絞り込むために、以下の条件をつけました。
- 緯度は北緯30〜60度
- 経度は東経75〜105度
- 直径は10キロ以上
- 非常にはっきりとした光条を持つ
光条については説明が必要でしょう。衝突によってクレーターが形成されたとき、物質は四方八方に飛び散り、光条を作ります。しかし、ほかのクレーターの噴出物によって埋もれたり、宇宙線による風化などの影響によって、時が経つにつれて光条はだんだんと薄くなっていきます。
逆にいいますと、光条がはっきりしているクレーターは、月の歴史の中で非常に新しいということができます。
■それはジョルダーノ・ブルーノだ!
そして、ハートゥングの示した条件にまさにぴったりのクレーターが発見されました。
ハートゥングが示したのは、緯度、経度とも範囲内にあり、直径が22キロ、そして月面でももっとも明瞭な光条を持つクレーター---ジョルダーノ・ブルーノでした。
このことから、ハートゥングは、1178年の「年代記」に記された記録は、このジョルダーノ・ブルーノ・クレーターを形成した衝突の目撃であり、このクレーターは、人類がその誕生を歴史時代にはっきりと目撃し、記録に残した、唯一のクレーターであると結論づけたのです。
アポロ8号が捉えたジョルダーノ・ブルーノ・クレーター(中央の明るいクレーター)
(AS08-12-2209, Photo by NASA) 写真をクリックするとより大きな写真をご覧いただけます (サイズ: 1.9MB)
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